13

 教会に駆け込んできたジャスミンがチョウを助け起こす。

 「チョウ刑事。しっかりしてください。」

 チョウは出血多量で意識が薄れかけている。

 「リルル。リルルか。」

 「……パパ。パパ、しっかりして。」

 「リルル…。ふふ。お嬢ちゃんか……。これを。」

 ジャスミンに警棒のようなものを渡す。

 「お嬢……いや、礼紋捜査官。実はな…宇宙警察の資料庫からわしも勝手に持ち出したものがあるんだ。それを君に託す。警察官は警察官に対しても警察官であるべきなんだ。宇宙警察の正義を守ってくれ。君がエスパーならば、わしの最後の意志を継いでくれ。胸のエンジンに火を点けるんだ。」

 チョウの顔に手をかざすジャスミン。チョウの熱い闘志がジャスミンに流れ込む。チョウはそのまま静かに息を引き取る。

 「パパ……。」

14

 教会の外。ギンが叫ぶ。

 「エマージェンシー。デカコルト。」

 ブレスロットルを両手に装着しているデカコルトはデカブレイクとデカレンジャー・スワットモードを圧倒する。

 「滅びよ。クズども。ハイパー高速拳、ギャラクティカツインファントム!」

 デカコルトの必殺技をはじき飛ばすディーソードベガ。颯爽と登場するデカマスター。

 「ボス。」

 「百鬼夜行をぶった斬る!地獄の番犬!デカマスター。」

 間髪を入れずマスターライセンスをかざす。

 「コルトノ・ギン。メガゲストリンの横領。及び連続殺人の罪でジャッジメント。」

 しかし、ライセンスが反応しない。圏外の表示が点滅している。

 「私のブレスロットルにはSPライセンスをリモートコントロールできるスーパーバイザーモードがある。宇宙最高裁判所とデカベースへの通信は遮断した。それだけではない。エマージェンシー・チェンジ・オフ。」

 デカレンジャーたちのスーツやディーリボルバーが微粒子状になって空気中に四散する。デカコルトのダブルたつまき拳ツイスタートルネードによってデカブレイクは大きく飛ばされて、変身が解除されテツは意識を失う。ホージーがSPシューターを撃つが、特キョウスーツには無力である。デカコルトのハイパーダブルエレクトロフィストが炸裂。電撃が地面を走り、ボスやバンたちは吹き飛ばされて、重傷を負う。

 「地球署の諸君。これにて全員デリートだな。」

 「俺たちは…指の一本でも動く限り、決して諦めない。正義は勝つんだ。…一つ、非道な悪事を憎み…。」

 バンが必死に立ち上がろうとするが立てない。

 「二つ、不思議な……事件を…追って。」

 ホージーが必死に立ち上がろうとするが立てない。

 「三つ、未来の…科学で……捜査。」

 センチャンが立ち上がろうとするが立てない。ジャスミンがいないことに一同気がつくが、

 「四つ!!」

 一斉に声の方角を見る。教会の屋根。黄色い満月を背にジャスミンが凛として立っている。

 「よからぬ宇宙の悪を。」

 喜ぶウメコ。

 「五つ、一気にスピード退治!」

 「ハッハッハッ。もう一人、雑魚が残っていたか。デカスーツもディーリボルバーもなく、一人でどうやって戦うつもりだ?」

 「私は一人じゃない。悪に魂を売り渡したお前の目には何も見えない。私の後ろに真っ赤に燃えている魂が見えない。正義に殉じたスペシャルポリスの魂が私にはついている。お前だけは、お前だけは絶対に許さない。……蒸着。」

 ジャスミンが右手を天に突き上げると雲間より光が差し込み、その粒子が彼女の全身を包み込む。そこに現れたのはメタリック仕様のコンバットスーツ姿に変身したジャスミンだった。絶句するデカコルト。ファイティングポーズを取ったジャスミンが叫ぶ。

 「宇宙刑事ジャスミン。」

 『宇宙刑事ジャスミンがコンバットスーツを蒸着するのにかかる時間はかわずか0.05秒である。では、その蒸着プロセスをもう一度見てみよう。』

 コンバットスーツとは宇宙警察がまだ銀河連邦警察と呼ばれていた頃の宇宙刑事の装備品である。当時の宇宙刑事は一人で惑星一つの平和を守っていた。それ故に宇宙刑事の装備品はいわば地球署全員の装備品に匹敵する程のスペックを持っている。しかし、この装備はあまりにアナログな仕様であり、汎用性がなく一部の限られた資質を持つ人物でないと使いこなすことが出来なかった。今では前世紀の遺物として宇宙警察の資料庫にスクラップ同然で封印されていたものである。形状記憶合金グラニュームの粒子が装着員の体に転送、蒸着されることでコンバットスーツとなる、いわばデカスーツのプロトタイプである。ただし、あまりの旧型であるためデカスーツのように洗練されたしなやかさに乏しく、ロボットのように無骨でメカニカルな印象が否めない。デカコルトが侮蔑する。

 「そんな錆びついた鎧で私を倒せるとでも思うのか。」

 ジャスミンが動くと耳障りな金属音がする。

 「でも、負けない。絶対、負けない。…宇宙刑事の魂をお前に見せてやるわ」

 ジャスミンはスパイラルキック、ディメンションボンバー、レーザーZビームと次々に荒技を繰り出し、デカコルトを蹂躙する。チョウの遺志とジャスミンの怒りが熱い闘志となってデカコルトを追いつめる。たまらずデカコルトはアブレラから提供されていた怪重機ダルメシアン101に跳び乗って攻勢に転じる。怪重機対ジャスミン。

 チョウ刑事は地球署に派遣が決まった時に密かに宇宙刑事の装備品である超次元高速機ドルギランを持ち出し、地球の空に隠しておいた。そもそもコンバットスーツはドルギランから転送されるシステムになっている。デカコルトのスーパーバイザーモードも、さすがに旧式なドルギランシステムには対応していなかった。ドルギランは上部のギランと呼ばれる円盤状の船体と下部の電子星獣ドルに分離、合体することが出来る巨大マシンであり、現在の地球署のデカベースの原型である。

 「電子星獣ドルーッ。」

 ジャスミンはドラゴン型のロボットであるドルを召還し、ジャンプ。その頭部に颯爽と立つ。ドルはダルメシアン101を一蹴りすると、超高熱火炎ドルファイヤーで粉砕する。炎上、爆裂する怪重機。

 地表に放り出されたデカコルトを追うジャスミンだったが、コンバットスーツはジャスミンの体力とエスパー能力を激しく消耗させていた。デカコルトの正拳ダブルアクセルブローの前に吹き飛ばされるジャスミン。

 ヘルメットの左顔面が直撃を受けて吹き飛ばされ、素顔が露出してしまう。ジャスミンの黒髪は既に三分の一が白髪化している。瓦礫の山に埋もれながらも、必死に立ち上がる宇宙刑事ジャスミン。

 「パパ…。私に力を貸して……。宇宙の悪を倒す最後の力を、私に。…………レーザーブレード!!」

 力を振り絞り銀河連邦警察伝説の光剣を引き抜く。その白刃が目映い閃光を放ち弧を描く。

 「ジャスミン、ダイナミック!」

 四散するデカコルト。

 変身を解いたジャスミンが枯れ木のように倒れる。

 ボスが抱きとめて、必死に名を呼ぶが応えない。抱きしめるボス。ジャスミンは死んだように動かない。

15

 宇宙警察官は如何なる場合でも宇宙最高裁判所のジャッジに従わなくてはならない。ジャッジを受けずにデリートすれば殺人罪を適用される。今回のジャスミンの取った行動は緊急避難的なもので犯罪に問われることはなかったが、コンバットスーツやドルギランが、宇宙警察から無断で持ち出されたものであることを知った上で使用したことは大きな問題となった。しかも特キョウ本部がデカコルト関連の内部調査を打ち切ったため、宇宙警察内部の横流し事件に関する捜査は頓挫する。特キョウ本部はマスコミの非難を逃れるために、ジャスミンの免職を求めたが、ボスの進退をかけた嘆願の前にそれは撤回された。

 ジャスミンは依然として意識を回復しないまま、一ヶ月の停職処分を言い渡され、デカベースを追われた。市民病院の一室に移送され、昏睡を続けるジャスミン。功績のある彼女に世間は冷たかった。

16

 驟雨の中、チョウの葬儀が密やかに行われる。喪服の夫人(ミミー?)。礼装姿のボス、バン、ホージー、センチャン、ウメコ、テツ。参列するヌマ・Oやブンター、スワン。娘の墓の隣に寄り添うように立つ、真新しいチョウの墓標。

 離れた場所からその有様を一人見つめるジャスミン。

 濡れた墓石の向こうから薄日が差し込む。ジャスミンが振り返ると空にくっきりと虹が架かった。チョウの魂は空の彼方でリルルとの邂逅を果たしたに違いない。

 「宇宙刑事ギャバン」全開のストーリーになりました。クライマックスは戦隊物であることを完全に忘れています。「素顔の戦士モード」の方が戦隊ものとしてのバランスはよいでしょう。尚、敵役のデカコルトとは私が如何にもありえそうなキャラクターとして創造したものですが、最初はデカシルバーと命名しました。デカレンの主題歌を歌っているサイキックラバーがステージでデカシルバーのコスプレをしたことがあるそうです。考えることは誰も同じと言うことでしょうか。混乱を避けるために名前をデカコルトに改めました。ちなみにコルトノ・ギンとは「コルトの銀」のことであり、日活映画「霧笛が俺を呼んでいる」に登場した宍戸錠の役名です。チョウ・サンのキャラクターが「男たちの挽歌」におけるチョウ・ユンファっぽくなっていますが、それもこれもご愛敬と言うことでお許しください。