知られざる事件

Episode.35+α ザ・アンソルブド・ケース



「特捜戦隊デカレンジャー Episode.35 アンソルブド・ケース」(原作 八手三郎     脚本 武上純希   監督 鈴村展弘)より

 地球。メガロポリスの繁華街。降りしきる雨の夜、シンジュクの裏道で一人の異星人が射殺され、死体で発見される。彼はテンカオ星人ヤム・トムクンだった。彼は十三年前に発生した連続強盗殺人事件の容疑者グループ、ラジャ・ナムナンとゴレン・ナシの仲間だった。通り魔による犯行か、ちんぴら同士の喧嘩によるものか。非合法筋肉増強剤メガゲストリンの密売人という疑いをかけられていた男でもある。いち早く宇宙警察本部から二人の刑事が派遣されてくる。一人はテツが尊敬する特キョウのエリート、コルトノ・ギン。もう一人は宇宙警察の資料保管係として今年定年退職を迎えるチョウ・サンだった。チョウは十三年前の連続強盗殺人事件を追っていた地球署の刑事だった。尊敬するギンの来訪を知らされテツやホージーは舞い上がるが、ボスだけはチョウの来訪を知り緊張している様子だった。来訪者の迎えにテツとジャスミンがメガロポリス・ステーションへ出向く。そこにはギンだけが憮然として立っていた。チョウは到着後、姿を消したらしい。テツがギンをデカベースへ案内し、ジャスミンはエスパー能力を発揮してチョウの足取りを追うことになった。

 ジャスミンはチョウをスガモで発見する。チョウはトレンチコートにサングラス。口には楊枝代わりのマッチ棒をくわえている。デカベースへ案内しようとするジャスミンをチョウは強引にアサクサエンゲイホールに誘う。チョウはジャスミンがラクゴに夢中になってしまっている隙に(ジャスミンンは実は5代目志ん生の大ファンで落語好き)売店でかつて自分が使っていた情報屋と接触。街の情報屋たちは今もチョウに一目置いているのだ。チョウは十三年前の事件の容疑者が出入りしている場所を聞き出す。バンが合流し、三人はパチンコ屋へ。チョウはテンカオ星人ゴレン・ナシを発見したが転倒し負傷。バンがゴレン・ナシを追うも突如現れたメカ人間たちに阻止され取り逃がしてしまう。

 チョウは昔なじみの宇宙漢方医ハクタクの薦めで打ち身に効く薬湯療法を受けることになったが、うっかり入浴中のウメコのバスルームに進入してしまう。チョウは素っ裸に風呂桶スタイルでデカベースを逃げ回ることになり大騒ぎとなる。その後、スワンの調べでヤム・トムクンを殺害した銃が十三年前の犯行に使われたものであることが判明する。証拠品として押収されていたはずの銃が、宇宙警察本部の保管庫から消えていたとホージーが報告する。十三年前の事件の最後の被害者はチョウ・リルル、チョウ刑事の愛娘だった。それ故にチョウは十三年前にその事件の担当から外され、結果的に事件は迷宮入りとなってしまっていた。詳しく事情を聞こうとメディカルルームにセンチャンが訪ねると既にチョウの姿は消えている。センチャンが逆立ちをするまでもなく、今回の事件がチョウ刑事の復讐劇である可能性は高かった。

 メガロポリス、某所。悪の武器商人、エージェント・アブレラが誰かと取引きの後、固く握手をしながら、

 「君とは末永く友好な関係を築きたい。ケチな売人たちとは縁を切って、これからは私と手を組もうではないか。」

 テーブルの上にはテンカオ星人ヤム・トンクンたちの写真が並べられている。

 ギンが全員の思いを総括するように重い口を開く。

 「地球署の諸君。チョウ刑事は十三年前の復讐を遂げようとしている。元地球署の刑事が私怨のために殺人を犯しているとなると宇宙警察全体の不祥事だ。チョウの身柄を秘密裏に拘束してほしい。このことが世間に知られることは我々にとって重大な信用失墜となる。マスコミに漏れる前に我々の手で解決したい。抵抗するならばデリートもやむをえない。責任は私が取る。」

 「ロジャー。」

 地球署には特キョウのギンを本部長とする特別捜査本部が秘密裏に設けられることとなった。バンたちは捜査を続行する。

 ジャスミンはリルルの殺害現場である廃工場跡に張り込む。センチャンの差し入れ、あんパンと牛乳を頬張るジャスミン。驟雨の中、チョウが現れる。ジャスミンは容疑に関してチョウを詰問するが、チョウにはぐらかされてしまう。チョウはふとジャスミンの顔を見つめる。ジャスミンの目元に亡き娘の面影を見たのである。

 「お嬢ちゃん……。わしは娘の事件に決着をつけたかった…。」

 ジャスミンはかつてリルルが倒れていた場所に手を触れ、その微かな残留思念を探り始める。

 「……お父さん、私のために、事件を解決して。でも復讐はいけない。復讐は正義じゃない。刑事は、真実を突き止めるのが仕事だっていう信念を、曲げないで。」

 リルルが自分に語りかけているように感じて、チョウは一瞬たじろぐが、次の瞬間に高らかに口笛を吹く。

 「ちっちっちっ……。お嬢ちゃん。わしはエスパー捜査なんて信じない。それに詰めが甘いよ。娘はわしのことをパパと呼ぶんだ。……地球署はわしがヤム・トムクンを殺したと思っているようだな。あいつに非合法筋肉増強剤メガゲストリンの密売容疑があったのは知っているだろう。これは公表されていないが、そのメガゲストリンのでどころが問題だ。押収された非合法物質は宇宙警察本部に集められ、その後処分される手筈になっている。しかし…それが処分されずに誰かの手で横流しされているとしたら。」

 「まさか、そんなことが。」

 「お嬢ちゃんには宇宙警察に巣喰う闇の暗さなどまだわからんよ。」

 ジャスミンの肩にやさしく手を置くと、テラン星人の特殊能力である電撃で彼女を気絶させる。

 「すまんな。お嬢ちゃん。わしには最後の仕事があるんでな。やらなくてはならないことがあるんじゃ。」

 バンたちに助けられ、ジャスミンは意識を取り戻す。

 「チョウ刑事は決して殺人者じゃない。私にはわかる。彼は宇宙警察の中で起こっている不正を暴こうとしているだけ。」

 「ナンセンス。宇宙警察に不正なんてありえませんよ。」

 「ジャスト、モーメント。ジャスミン、チョウ刑事の行き先を探ってくれないか。」

 ジャスミンは地面に這い蹲って、チョウの足跡を探る。泥にまみれつつも両手で必死に探った。ジャスミンはエスパーである。物体を通して触れていたものの心を読みとることが出来るのである。しかし、チョウの足跡から残留思念を読みとることはジャスミンのサイコメトリー能力をもってしても、限界に近かった。やがて泥だらけの顔を静かに上げてジャスミンが呟く。

 「D133地区の古い教会…」

 憔悴したジャスミンを残して、バンたちはD133地区へ急行する。

D133地区の古い教会でくつろいでいるラジャ・ナムナンとゴレン・ナシ。ぶらりと現れるチョウ。

 「おっす。久しぶりだな、ラジャ。」

 「チョウ。貴様がヤムを殺ったのか。」

 「だったら、どうする。」

 「十三年前のことを疑ってるのか。俺たちは証拠不十分で釈放されたんだぜ。」

 「黙れ、悪党。わしがあの事件の担当から外されなかったら、貴様らが不起訴になることはなかった。出来ることなら、ヤムの奴もわしがこの手で始末したかったよ。」

 銃を構えるチョウ。二人は両手を大人しくあげる。チョウは引き金を引こうとするが、耳にジャスミンの声が蘇る。

 『でも復讐はいけない。復讐は正義じゃない。刑事は、真実を突き止めるのが仕事だっていう信念を、曲げないで。』

 銃口を下げるチョウ。ラジャたちの第三の腕が腹部より飛び出し、チョウを銃撃する。銃声に驚いた白い鳩が一斉に舞い上がる。スローモーションで倒れるチョウ。

 廃工場跡に佇むジャスミンにボスから連絡が入る。

 「聞いてくれ、ジャスミン。チョウ刑事は駆け出しの俺に刑事のイロハを教えてくれた偉大なデカだ。彼はまだ宇宙警察が銀河連邦警察と呼ばれていた頃からの叩き上げのデカだ。たとえ愛する娘のためでも、あの人が犯罪に手を染めるとは俺にはどうしても思えん。チョウ刑事を救って欲しい。」

 ボスの渾身の頼みにジャスミンの顔に生気が蘇る。

 「ロジャー。」

10

 チョウとラジャたちの銃撃戦が続く。血まみれのチョウがゴレンを撃ち倒す。ラジャとの一騎打ちになるが、被弾して倒れるチョウ。チョウは必死に引き金を引くが、残弾はなく撃鉄の音だけが空しく響く。

 「冥土の土産に教えてやろう。十三年前にお前の娘を殺ったのは、確かにこの俺、ラジャ様だぜ。」

 ラジャの乾いた笑い声が響く。

 「死ね。老いぼれ。」

 教会に轟く銃声。

11

 ゆっくりと倒れるラジャ。駆け込んできたコルトノ・ギン。

 チョウを助け起こそうとするが、その手の中の銃に気づき、それを払いのけるチョウ。血を吐きながら、

 「今度の捜査にわしを呼んでくれたわけがはっきりした。あんたの持っている銃。それは十三年前の事件の証拠品として宇宙警察に押収された銃のはず。ヤムを殺した銃だ。つまりヤムを殺したのはあんただ。」

 「こいつらは私が宇宙警察から盗み出したメガゲストリンを捌いていたちんぴらだ。もっと高い値を付けてくれるエージェントが現れたんで、始末することにした。……全ての罪を背負ってお前は死ぬ。ラジャとの仲間割れという筋立てはどうかな。この辺境の星で娘の後を追ってくたばるがいいさ。例え貴様が生き延びて証言したところで、お前の言うことを信じる者など全宇宙に一人もいない。」

12

 「俺たちが信じる。」

 教会の入り口に立つバン、ホージー、センチャン、ウメコ、テツ。

 「天網恢々疎にして漏らさず。俺たちはチョウ刑事を信じる。ボスとジャスミンが信じたチョウ刑事を信じるぜ。」

 バンが叫ぶ。テツが吠える。

 「ギンさん。あなたは僕の目標で……憧れでした……。エマージェンシー。フェィス・オン。無法な悪を迎え撃ち、恐怖の闇をぶち破る。夜明けの刑事、デカブレイク!無法な悪を迎え撃てと教えてくれたのはあなただ。」

 「ふふっ、優等生の坊や。私のスピードについてこれるかな。」

 外へ逃れるギンをデカブレイクが追う。

 「俺たちも行くぜ。チェンジスタンバイ。エマージェンシー。デカレンジャー。フェィス・オン。スワットモード・オン」

 デカレンジャーもディーマグナムを抱えて、デカブレイクの後に続く。

13

 教会に駆け込んできたジャスミンがチョウに気づき、一瞬怯む。しかしすぐに助け起こす。

 「チョウ刑事。しっかりしてください。」

 チョウは出血多量で意識が薄れかけている。

 「リルル。リルルか。」

 「……パパ。パパ、しっかりして。」

 「リルル…。ふふ、そんなわけないか…。お嬢ちゃんに、これを。」

 ジャスミンに警棒のようなものを渡す。

 「お嬢ちゃん。警察官は警察官に対しても警察官であるべきなんだ。宇宙警察の正義を、デカの誇りを守ってくれ。」

 絶命するチョウ。

 「パパ……。」

14

 教会の外。ギンが叫ぶ。

 「エマージェンシー。デカコルト。」

 ブレスロットルを両手に装着しているデカコルトはデカブレイクとデカレンジャー・スワットモードを圧倒する。デカブレイクはブレスロットルを破壊されて、気を失う。ディーマグナムの銃弾をすべて跳ね返すデカコルト。絶体絶命のデカレンジャー。

 「滅びよ。クズども。ハイパー光速拳、ダブルギャラクティカフィスト!」

 デカコルトの必殺技をはじき飛ばすディーソードベガ。

 颯爽と登場するデカマスター。

 「ボス。」

 「百鬼夜行をぶった斬る!地獄の番犬!デカマスター。」

 間髪を入れずマスターライセンスをかざす。

 「コルトノ・ギン。メガゲストリンの横領。及び連続殺人の罪でジャッジメント。」

 しかし、ライセンスが反応しない。驚くデカマスター。

15

 「私のブレスロットルにはSPライセンスをリモートコントロールできるスーパーバイザーモードがある。宇宙最高裁判所との通信は遮断した。それだけではない。エマージェンシー・チェンジ・オフ。」

 デカレンジャーたちのスーツが微粒子状に分解してしまう。呆然とするバンたち。ホージーがSPシューターを撃つが、特キョウスーツには歯が立たない。デカコルトのハイパーダブルエレクトロフィストが炸裂。電撃が地面を走り、ボスやバンたちは吹き飛ばされ、地に伏してしまう。デカコルトが両腕を構える。

 「地球署の諸君。これにて全員デリートだな。」

16

 「待ちなさい。」

 硝煙の中、ジャスミンがゆっくりと歩いてくる。

 「礼紋捜査官。」

 「お前だけは絶対に許さない。」

 「デカレンジャーとしての装備が一切使えない。しかも一人でどうやって戦うつもりだ?」

 「パパ…。」

 チョウに託された警棒状の武器を祈るような仕草で腰だめに構え、ジャスミンは全てのサイキックパワーを込める。

 「…パパ…、私に力を貸して……。」

 光り輝く剣を引き抜き、構えるジャスミン。そして叫ぶ。

 「レーザーブレード!!」

 「何!素手でその剣を扱えるものがいるとは…。」

 チョウがジャスミンに託したのは銀河連邦警察伝説の名刀、レーザーブレードである。ジャスミンのサイキックパワーが剣に残っていたバードニウムエネルギーを活性化させたのだ。青白い光剣が一閃する。

 「ジャスミン・ダイナミック!!」

 ダブルブレスロットルが衝撃で破壊され、ギンの特キョウスーツが四散する。ジャスミンがSPライセンスをかざす。

 「アラン星人コルトノ・ギン。メガゲストリンの横領。及び連続殺人。スペシャルポリスの正義に反した罪でジャッジメント。」

 通信が回復した。

 『ジャッジメントタイム。』

 『スペシャルポリスの要請により、はるか銀河の彼方にある宇宙最高裁判所から判決が下される。』

 「デリート許可。マーフィーッ」

 駆け込んでくるロボット警察犬マーフィーK9。ウメコがキーボーンを投げる。マーフィーがディーバズーカに変形。バンたちが素顔のままでバズーカを構える。中央で引き金に手を掛けるジャスミン。

 「ストライク・アウト!」

 爆裂するコルトノ・ギン。

 「これにて一件コンプリート。この世に止まない雨はない。」

17

 宇宙警察葬がしめやかに行われる。礼装姿のジャスミンやウメコたち。参列するヌマ・Oやブンター、ハクタク。娘の墓の隣に寄り添うように立つ、真新しいチョウの墓標。濡れた墓石の向こうから太陽の光が差し込む。ジャスミンが振り返ると空にくっきりと虹が架かっている。

派遣されてくる刑事に若手エリート刑事を加えること、「宇宙刑事ギャバン」の設定を生かすこと、尚かつSPライセンスが封じられる危機。この三つが+αの要素です。プロットと小説の中間のようになってしまいました。お約束は積極的に入れたかったのにロボット戦を入れられませんでした。一般的には「だって戦隊物でしょ。」と軽んじられる作品ですが、自分でストーリーを考えてみて、スタッフの方の苦労の一端がわかりました。ストーリーの一部を脚色するだけでも、なかなかどうして納得のいくものを作るのは難しいものです。ダブルブレスロットルを装着した特キョウの上司が悪役で出てきたら面白いと思うんですが(八手さんたちもアイディアは持っていることでしょうが)、実現は難しいのかも知れません。ファン同士で盛んらしい二次創作の楽しみというものを味わえました。どうしても胸のエンジンに火を点けたい人のために「蒸着モード」も用意しました。 [蒸着モードへ]