怨み屋本舗
 




木下あゆ美の初主演連続テレビドラマ「しかるべく」

 木下あゆ美のベストワークとして「怨み屋本舗」をあげることができる。彼女の初めての主演テレビドラマでもある。デカイエローのイメージを払拭する一世一代の(現時点での)当たり役ともいえる。依頼人に代わって恨みを晴らすという設定はまさに現代版必殺仕掛人。きちんとギャラはいただいて、それに見合う範囲で社会的抹殺から殺人代行まで請け負う。ドラマのBGMにも必殺を意識した楽曲があり、東京の雑踏の中で高らかにトランペットが鳴ると思わず失笑を抑えられなかったのだが、なかなかどうして真面目に作っている。低予算であることは否めないが、三脚を使わず常に手持ちカメラで撮影するなど、時間的制約に追われる低予算テレビドラマの宿命を逆手にとって、登場人物たちの不安定な心理をうまく構図に載せることに成功している。また、深夜枠とも思えない、一点豪華主義的なキャスティングが毎回ドラマを盛り上げていた。注目すべきは2000年台後半からその独特な存在感を発揮し続けている寺島進である。彼が怨み屋グループのカナメである情報屋を最初に演じてくれた功績は大きい。

 木下あゆ美は怨み屋グループのリーダーである謎の美女を妖艶に演じるという役どころである。徹底的にクールであり、顔色一つ変えずに「殺しますか」と聞いてくる能面のような美女。クール&ビューティそのままだ。が、そのルックスとは違和感バリバリの濃厚メイクでの登場。まるで往年のかたせ梨乃みたいなメーク。しかも、べたっとした長い黒髪姿。およそ感情らしいものを表さず、冷たい微笑を浮かべるのみ。でも、こんな小娘が寺島進とギブ&テイクとはいえ、相棒として認め合っている仲なのだ。大切に演じれば後十年は演じられるキャラクターである。

 放映当初ははこんなキャラクターを演じてしまっては「はまってしまう」との危惧が生まれたものだったが、彼女の演技のふり幅を考えると「ひとつの極北を見せた」ということで価値のあるものである。ただ本来の明るいドジっ子的な「木下あゆ美」のキャラとはまったく相反する役なので、毎回の放送後のお知らせ部分に登場する明るい彼女とのギャップに視聴者は大いに戸惑ったことだろう。

 ドラマの前半は怨み屋グループの形勢、後半は怨み屋を追う刑事との闘争が縦糸とし、毎回、依頼人の恨みを晴らすドラマが横糸となり、ワンクールを見事に作りきった感じがする。殺人は滅多にしないが、後半は怨み屋自らがターゲットに接触する話が多くなり、彼女の七変化も楽しめた。黒髪の長髪が実は鬘であり、あの濃いメークそのものが変装だったと知れる辺りから、話も佳境に入り、ラスト近くには怨み屋自身がターゲットを殺害するエピソードも登場する。やる時はやるという怖い女だったというわけだ。

 第一期が終了し、スペシャル版二本をを経て、第二部(怨み屋本舗REBOOT)へ。レギュラー陣の「シュウ」と「情報屋」が変わってしまったが、作品としてのポテンシャルは維持され続けているので、次期シリーズが期待される。