娼婦と淑女




木下あゆ美出演昼ドラ第二弾「全部、紅子のせいよ」

 2010年、木下あゆ美は「怨み屋本舗」や「ツギクル」で固定化されつつあるイメージを払拭するべく、再度昼ドラに挑戦する。今回は主演に安達祐美という大物を据えた、いわば本格的な昼ドラ愛憎劇である。製作するのは名うての東海テレビ。しかも木下あゆ美は主人公のライバルとして登場するという評判だった。鳴り物入りとはこのことで、家なき子の安達と怨み屋の木下の対決となれば、これは異種格闘技戦のような盛り上がりを十分に期待できるはずだった。

 木下あゆ美が演じたのは成金の令嬢。愛する男を安達と奪い合うという設定である。とはいえ「娼婦と淑女」というレールを外れたジェットローラーコースタードラマは全65話という長丁場。ストーリーに整合性のない、場当たりな見せ方を多用するドラマといってよい仕上がりだった。初期設定をあっという間に消費しての、ぶれまくる人物設定だけが印象的だった。要するに作品的には見るべき価値の少ない作品となってしまった。

 

 木下あゆ美はヒロインをいじめる恋敵という昔の少女マンガにありがちな濃いキャラとして登場。名前もゴージャスに羽賀麗華である。ところが麗華はライバルキャラとしてはすこぶる弱い性格設定がなされていて、ちっともヒロインを圧迫することができない。いつの間にかヒロインに引きずられて、過酷な運命の渦に巻き込まれていき我を忘れていく。安達が演じた紅子はヒロインというよりもヒーローといった位置付けだったので、結局、悲劇のヒロインは麗華が担当することになる。麗華は愛する真彦の子を授かるものの、別な男に犯され、その男の妻となる。自分を虐待する自分の夫を誤って殺害。息子の真一を紅子に託して獄中へ。

 出所後は遠くから真一を見守ろうとするが、紅子によって強引に親子の再会をさせられる。真彦に容貌のよく似た陽平を愛そうとするが、それも紅子に奪われ・・・と常に紅子に邪魔され、波乱万丈で苛烈な生涯を送る。

 エキセントリックで非日常的な登場人物揃いの中にあって、ひたすら運命というか、紅子に振り回された麗華の一生だった。第一部の娘時代は能天気でちょっと腹黒いが恋には一途なお嬢様を。第二部の若奥様時代は夫のドメスティックバイオレンスにひたすら耐える女を演じた。第三部では精神的に病んでいる娼婦を演じた。そしてラストの5話では視聴者が待望していたと思われる「家なき子」VS「怨み屋」対決を垣間見せてくれた。最初からこの路線で行けば、ドラマ的にはよかったのではと残念に思うものの、結局、木下の起用は「怨み屋」像を求められていただけなのか・・・と暗澹たる気持ちにならなくもない。

 今まで培ってきた女優としての引き出しをおよそひっくり返すような経験だったようだ。ドラマとしては感心できない出来栄えではあったし、麗華はいつも怒るか泣くかの役回りだったので、視聴者が彼女に抱く好感度があがったとは思えない。しかし最終話で見せた小料理屋の女将の佇まいは絶品だった。彼女には笑顔が似合うのである。