野花 風来坊シリーズ




野花 風来坊シリーズ (2017年、アルバトロス)


 松方弘樹の遺作としてDVD化された本作品は、劇場用映画として製作されたが全国公開にはならなかった。全国公開の劇場映画としては残念ながら力不足な作品であることは否めない。
 造園会社社長の松方は顧客からも社員からも信頼される庭師の親方である。しかし、依頼は減る一方で経営は火の車だ。会社に松方の孫と名乗る若い女性(女子大生相当)がふいに来訪するところからドラマが始まる。女性は家族を捨てた松方を詰り、、父の入院費用を援助するように高飛車に要求する。松方は身に覚えがあり、自分の年金通帳を差し出す。松方がなぜ家族を捨てたのかが経糸となり、やがて女性が造園会社働き出して…という展開となる。タイトルと内容が一致しない作品でもある。多分、松方が風来坊となるまでのいわばエピソード0的な話なのであろう。松方は東北の被災地に緑のふるさとを取り戻すべく、各地に花や木を植えて回る風来坊となるはずだったのだが、諸般の事情でシリーズ化が見送られたということなのだろう。
 社員の入れ替わりがあり、松方と孫の和解、そして松方の旅立ち(風来坊の誕生)へと続く。ストーリー的には波乱もない。松方が家族を捨てた理由も初期の段階でというよりも、この配役の時点で丸分かりであり、過去をすべて会話で済ましてしまうという低予算ぶりな演出。今の映画だからビデオで撮影されて、シネマ処理がされているようではあるが、低予算のためかビデオの特有の生々しさが消えていない。照明の数も少なく、色調や画質にばらつきがあり、萱葺き屋根にモアレが残るなど残念仕上りとなっている。
 ともあれ、二世俳優の競演とみると楽しい。何しろ御大松方弘樹自身も二世俳優だが、ヒロインの趣里は水谷豊(伊藤蘭)の娘である。演技がまだなっちょらんのが残念だが、こういう不器用な娘を演じたのだと思えば悪くない。水谷豊も若い頃は決してうまい役者ではなかった。
 それよりも注目は親父そっくりになってしまった仁科貴。川谷拓三の遺子である。味のあるいい俳優になった。彼の熱演を見るだけでも、この映画には価値がある。後半、腕を痛めた松方が、「親方」の座を仁科に譲る場面があるが、東映の看板を背負ってきた松方弘樹が川谷拓三の息子にその看板を継承するのかと思うと感慨ひとしおな場面となる。
 低予算映画であること自体が映画の価値を決めるわけではない。しかし嵐の中で倒れた庭木を処理しに行くシーンの雨の処理などは低予算だからというよりも、自主映画並みの技術不足だ。スタッフの数が絶対的に足りていない証左である。また、出演者の作業服やジャンパーがいつも新品らしく清潔すぎて違和感がある。弱小造園会社の庭師たちがどうして毎日新品の作業服を着ていられるのか。これはリアリティがないというレベルではない。庭師としての作業全般に対して演出らしいものが見られない。低予算だからダメなのではなく、そこに演出がないのだ。趣里が再生させようとしている観葉植物のエピソードもベタ過ぎてついていけない。

 

 そんな中で木下あゆ美の役どころは造園会社の社員である。超能力者でも殺し屋でもない。趣里に対する先輩として、後輩いじめを展開するというちょっとヤンキーが入った「お局様」ポジションだ。いわゆる「あゆ美様」演技は板についているので、久しぶりにドSキャラ全開かと思わせるも、なかなかどうして複雑な表情を見せる。親方である「松方」の人柄に惚れて弟子入りをしたという設定は、デカレンジャー時代のジャスミンとボスの関係にも似ている。新入りの趣里と反発しあいながらも、時には人生の先輩として、趣里を思いやる絶妙な演技もできている。「あゆ美様」的な演技からはそろそろ脱却の時期だということだろう。女優は使ってもらえてナンボではあるが、今後は「あゆ美様」から離れて、このような「普通の人」をもっと演じてほしい。