トラベラーズ 次元警察




トラベラーズ 次元警察 (2013年、ダブル・フィールド株式会社


 ドラえもんの映画でよくタイムパトロール隊が登場する。過去を改竄する犯罪者を取り締まる未来の警察組織だ。そのパラレルワールド版が本作に登場する次元警察という概念だ。パラレルワールドを自在に行き来する文明を手に入れた未来の、というか別次元の世界と捉えるべきか。だから、この映画ではタイムスリップが行われているわけではないので、タイムパラドックスは発生しない。この設定は実に面白い。但し、映画は説明不足のまま、怒涛のアクションをひたすら繰り返すので、内容を把握できたのはかなり後半になってからだった。はっきり言ってストーリーの整合性が理解できない。そもそも理解しようなんて思わなくても、長澤奈央と木下あゆ美の太腿だけ見てればいい映画なのだが、もう少しうまい説明が欲しかった。要するに『次元警察』というタイトルだけで、ストーリーやバックボーンなどは二の次、三の次なのだろう。
 監督の趣味が相変わらず爆裂した映画で、好きなことだけやりましたという感じが全編に溢れている幸福な映画である。とにかく二人の女優のいろいろな姿をじっと鑑賞し続けたいという監督の思いには感動させられる。DVDの特典として、長澤と木下の二人をはべらせて監督が他愛ないおしゃべりをするというオーディオコメンタリーがついているのだが、単に両手に花のデートしているだけで、仕事を忘れて楽しそうだ。予算の都合で登場人物を抑えて、使い回しするため・・・・・・つまり、長澤と木下に何役もやらせるために、監督自身がパラレルワールドという設定を思いついたらしいので、とにかく女優ありきの映画なのである。

 

 日本と香港の合作ではあるが、とにかく予算があまりない状況なのは登場人物の少なさやロケ地に見て取れる。なにしろモブシーンが全くない。ほとんど人が写っていない。廃墟や深夜のビル街がメインで、C.Gや照明でそれを補おうとはしているものの、人が写っていないのはまずい。パッケージも夢がなく、ビデオ屋の棚を埋めるために置かれているZ級お色気SFアクションの山に埋もれてしまいそうだ。また、前述したとおり次元犯罪というものがわかりにくい。もう少しわかりやすいものにしないと海外では受けないと思われる。もしも続編が作られるとしたら、もっと単純な痛快アクションに特化してもらいたい。
 中村浩二と人見早苗、杉口秀樹というアクションができる俳優をそろえたことで、生身のアクション度がかなり高い。今や海外向けB級アクション映画の顔といってもいい島津健太郎の怪演も光る。東映特撮つながりのキャスティングなので特撮ファンには馴染みが多い顔ぶれがずらりと並ぶ。ここに竹下直人や伊武雅刀が出演していたら、もっとB級度がアップしたことだろう。しかし、いかんせん、その辺にいたADやらサバゲー親父とかがちょこちょこ映っているだけで、画面が寂しいことこの上ない。
 長澤とストライクビークルの会話が森山祐子主演の「ゼイラム」(1991)を髣髴させる。「ゼイラム」がそのストーリー上、限定された空間(ゼーラムゾーン)で展開されるという設定だったのに比べると、次元警察がよりワイドな平行世界を舞台にしていながらも、妙な閉塞感があるのが残念だった。やはり「セカイ系」の物語を映画で訴えるためにはモブシーンがどうしても必要なのかもしれない。
 とはいえ、長澤と木下こそがテーマであるこの映画は二人のPVとしては申し分ない。本格的な格闘アクションは長澤に一歩譲るものの、木下も黒レザーのミニスカという、目のやり場に困るけしからん衣装で激しい立ち回りを披露する。次元警察の制服らしいのだが、宇宙警察のスカートよりもさらに丈が短い。木下演じる百瀬唯はいわゆる「木下あゆ美」そのものでクール&ビューティーな女性。より大人になって宇宙警察から次元警察へ出向し、ハードボイルドが染み付いたジャスミン(礼紋茉莉花)といった雰囲気だが、B級グルメぶりを長澤と無邪気に語らうなど、様々なシチュエーションと表情とを見せてくれる。名実ともに木下あゆ美の集大成といってよい作品である。