恐怖のダイエット




恐怖のダイエット(2006年、コンパスTV)

手塚眞は若い頃に東京12チャンネルの「もんもんドラエティ」で一つのコーナー(お茶の子博士のホラーシアター)を任されていたことがある。そこで短い8ミリのホラー映画を制作していたが、この作品はその流れに乗ったようながショートホラーオムニバス「手塚眞のホラーシアター ザ・バースデイ 〜運命の魔人〜」の中の一編である。ホラーの一つの要素に理不尽な仕打ちにさいなまれ続ける「不条理」がある。不条理にひどい目に遭う人々の悲しみとか辛さは、それが因果関係で説明することができない分、尚一層救われない。運が悪かったではすまされない不運ほど人を悲劇に陥れるものはない。

 「恐怖のダイエット」という身も蓋もない、即物的で夢のないタイトル。ファンタジーの翼が広がりそうもない。ひどすぎるタイトルといってよかろう。内容はダイエットに狂走する若い女性の陥った不条理な世界といったところ。笑っていいんだか、恐怖を感じていいんだか、ちと判断に困る部分もある奇妙な作品である。この作品の場合、怪物はヘルスメーターであるので、タイトルを「ヘルズメーター」とでもした方がなんぼかましだったかもしれない。

 タイトルがよくない上に、いかにも二日間で撮り上げました的な小品で、物足りない印象がある。とはいえ、この連作には最適な一粒ホラー劇場といった案配。このシリーズはそもそも当時売れ線のグラビアアイドルを主役に揃えた豪華なラインナップが売りである。 他のメンバーを一覧すると壮観である。松嶋初音、立花彩野、原史奈、秋山莉奈、石井めぐる、かでなれおん、天川美穂、浜田翔子、佐野夏芽、吉井怜の総勢12名。撮影されたのは2005年であるから、かなり力強い布陣だったのではなかろうか。そもそもホラーとアイドルは親和性が高い。この一員として抜擢されたと思えば木下あゆ美にとっても実に名誉な仕事だったとというべきだろう。

 当時の彼女はデカレンを卒業後、イメージDVDやグラビア撮影の仕事が入り、秋にはマスサンの撮影を控えているという順風満帆な時期だった。主演女優の一人として扱ってもらっているという彼女自身の喜びが伝わってくるように、前半はのびのびと「普通の女の子」を演じている。そして中盤以降は徐々に精神に異常を来たして、凄惨な破局を迎える様子をきちんと演じ分けている。

 しかし、惜しむらくは個々の演出はともかく、脚本が練れていない。25年前の8ミリ作品を再現したような作風になっている。ヘルスメーターの針が人差し指に変わるシーンのチープさは、もろに8ミリ映画、初期の大林映画的な手作り特撮らしさを出しているのだが、それが楽屋落ちにもなっていない。多分、喜んだのは関係者の中でも手塚眞だけなのではあるまいか。そう思ってスタッフを調べてみると、意外にも「恐怖のダイエット」には脚本・監督・撮影・編集のいずれにも手塚眞は絡んでいない。絡んでいないためなのか、あまりにも素直に「お茶の子博士のホラーシアター」を忠実にスタッフはリメイクしてしまったようだ。ショッキングなオチ映像の出し方も往年の手塚眞演出を再現したものである。

 とはいえ、木下あゆ美は他のグラビアアイドルたちに比較すると抜群の演技力だった。シーンごと、カットごとに全く別人のような女性の横顔を見せている。あらゆる意味でスタートラインに立った素材としての彼女が垣間見れる作品と言ってよい。メイキングのインタビューによると彼女は「叫び」にはまっているという。悲鳴を上げることが快感らしい。2008年公開の「真木栗ノ穴」や「哀憑歌」でも、ホラークイーンのように叫んでいた。