気のきく女




気のきく女(2004年、ジャパンホームビデオ)

 安藤希と森下千里がストーリーテーラーに扮したオムニバスホラー「姫」。その第一巻「愛しすぎる女」の中の第二話「気のきく女」に脇役で木下あゆ美が出演している。インターネット放送時に「愛しすぎる女U」と改題されて放送されたこともあるが、DVD化の際に元の名前に戻されているようだ。ビデオで撮影された作品である。気がきく嫁(小林恵)があまりにも気がきくので、それが次第に夫にとって恐怖になっていくという話である。原作が御茶漬海苔というホラー界のビッグネーム、ホラーOVA女優化している安藤希とブレイク寸前の森下千里という何かと木下あゆ美と縁がある二人。このシリーズは他にも戦隊やライダー系の人たちが多々出演。その手の女優さん好きには好企画といったところ。

 木下あゆ美は不思議な女子高生(終ワラヌ)の次は早くもはまり役とめぐり合ってしまったらしく、彼女の必殺技である愛人キャラを天然ぽく演じている。売り出し中のタレントに、せっかく二十歳前のプロフィールを詐称させているのに、不倫OL役を振らなくても良かろうと思われるのだが、あにはからんや彼女が最も似合うのは「大人の魅力、それとも親父コロガシ」と言われた親父キラー役だったのである。それをいち早く見抜いて、こんな役をつけたマネージャーは慧眼だったというべきだろう。その後、この愛人路線はデカレンのジャスミン役を経て、「経理女」やイメージDVD「レトル」に繋がっていく。不倫関係の清算をイメージした「レトル」では、愛人キャラからの脱皮を宣言していたかのようだった。

 とは言うものの「愛しすぎる女」の場合は実に典型的な不倫OLを類型的に描いている。完全な脇役なのだから、よしとするべきなのだが、家庭のある上司を誘惑し、愛人関係を結び、それを楽しむOL。特に個性もなく、軽く物事を考えている。演技らしい演技力をさほど現場で要求されなかったのか、かなり大味な演技に留まっている。自分のパートをきちっと演じたといえば聞こえがいいが、それ以上でもそれ以下でもないというべきか。

 肝心の作品自体も可もなく不可もなく、女性が作った女性のためのリアルホラーというコピーからも伺えるように、ホラー風味は薄い。主演の小林恵の明るい演技が、どうにも恐怖に結びつかない。ラストの破局も男優のオーバーアクトでなんとか恐怖感を出そうとしているようだが、フラットな照明、ビデオ作品らしい安易な色調、はっきりいって、全然怖くない。身の毛がよだつような恐怖を欲する人には満足できないレベルである。第一話の「試す女」はそこそこ不気味だったが、「姫」シリーズは女優目当てで見るドラマであり、ホラーというジャンルにくくるべきではないのかもしれない。