戦極Bloody Agent




戦極 Bloody Agent (2014年、OUENDAN)


 木下あゆ美、20代最後の主演映画である。木下あゆ美はアクション俳優ではないのに、よく格闘演技を強いられてかわいそうではあるが、そこは女優、アクションを頑張ってこなしている。とはいえ、共演者たちもみなアクション演技に頑張っているので、食われ気味であるのが残念。
 レンタルビデオ屋の棚埋め的のアクション映画である。スケジュールの都合上、雨が降ったりやんだりしているのも、低予算をうかがわせる。アクションに特化している点に否やはないが、脚本がなっちょらん。余裕がなさ過ぎる。お笑い担当の高東楓も悪ふざけにしか見えない。昨今、インチキ中国人(藤村有広か?)なんてものを登場させて大丈夫だったのだろうか。
 冒頭、多羅尾伴内(片岡千恵蔵)みたいに、背後からの銃撃をかわす女子高生コスプレは許す。木下のアクションを影で描く演出もよかったが、彼女の打撃力に説得力をもたせて欲しかった点が心残りである。
 BLOODY AGENTのアジトがどっかの物置(必殺仕事人)なのもいただけない。あんな怪しい集団が物置なんかに集まっていたら、目立ちすぎる。物置と倉庫と公園と中華料理屋(ジョン・ウー監督にリスペクトしたいらしいが、ジョン・ウーに謝るべき)の4カ所でロケを済ませたらしく、物語の世界観が広がらないことおびただしい。
 エンドロールに仕組まれた悪夢のようなミュージカルにしろ、終わり方にしろ、B級映画というよりも自主映画に近いテイストである。「アクション撮ったぜ」とばかりにスタッフ一同が自己満足をして、映画というものを見失ってしまったに違いない。アクションシーケンスを平板に並べただけではドラマは成立しない。アクションの垂れ流しはテンションが下がるばかりだ。かつて空手の達人の少女を本当に連れてきて撮影したアクションてんこ盛りの映画もあったが、あれも演出不足で映画的に成立していなかったが、本作はそれ以上に演出が感じられない。大相撲の観客は大相撲ダイジェストを見たいわけではない。取り組みが進み、三役、横綱が登場し、「さぁ、盛り上がってきましたぁーっ」という流れを楽しみたいのである。映画鑑賞もそういうものだ。
 基本的には私怨で動いているようだがBLOODY AGENT側の背景が全く描かれていないので、正義対悪の抗争という枠組みが薄っぺらになっていて、戦いの意味が見出せない。とってつけたような「自分を取り戻すため」という理由も、「取り戻す自分とはそもそもどういう事なのか」「自分探しのために殺戮を繰り返すのか」という観客の疑問には答えてはくれない。アクションシーンを削ってでも、もう少し人物を描いたほうがよい。アクション映画に求められる「爽快さ」や「カタルシス」がまるでない作品であると評価してもよい。活きのいい刺身をどんぶりに盛り付けるような板前のいる店には二度とはいかない。俳優たちの懸命なアクションを生かすも殺すも監督次第だとつくづく感じてしまう。

 

 肝心の木下あゆ美は美しく描かれているか。泥の中でも宝石は光るものだ。悪くない。が、良くもない。宝石らしい見せ方があるはずだ。彼女はいつもしかめっ面で革ジャンを着て町を歩いている。あの怪しさでは、すぐに職務質問されて、警官と乱闘事件を起こしてしまうだろう。普段の生活ぶり(表の顔)が全く描かれていないので、生活感が湧かないし、ここぞと言う時のけれん味がない。つまり市井の愛すべき人物として描かれていないのだ。市井の人間が巨悪に対して、スイッチが入る過程やその落差に面白みがある。変身シーンは重要な見せ場なのだ。これがないということは重要な瑕疵である。
 そもそも仕事人は表と裏の顔を使い分けなくては成立しないのだが、このメンバーたちはそれを全く意識していない。そのために、足がついてあっさりと仲間の一人がが殺されて、あわや離散の危機にあったりする。残った三人で二五〇人の待ち受ける敵地に殴り込みをかけ、朝から次の夜明けまでまる一日(?)戦うのが最終決戦となるのだが、このラストバトルが先述のとおり冗長冗漫で工夫がない。第一、日本刀使いにしてもガンマニアにしても、結局ステゴロが一番強かったりするのはキャラクター崩壊である。
 木下あゆ美にしても最終決戦の時にはミニスカを履きなさいとは言わないが、無骨なマキシスカートでの殴り込みはいけない。足が全く上がらないし、夢も華もない。(撮影時期が真冬で寒かったので防寒タイツを着込みすぎて脱げなかったのかもしれない)戦いの途中からでもスリットを入れたり、短くなったりすれば戦いの経過を描く一助くらいにはなったのに残念だ。巻きスカートを広げてとバズーガ砲くらい出せばよかったのである。かつて水野美紀(ハード・リベンジ、ミリー)は右腕に日本刀、左足にショットガンを隠していたし、米倉良子(GUN CRAZY)も左足にロケットランチャー、希志あいの(サムライプリンセス 外道姫)にいたっては胸から回転鋸(ガイガンカッター)を・・・っとそれぞれサイボーグ004状態だったのに。木下の秘密兵器である仕込みトンファーも、ここぞというところで刃を出さなければ生かせない。切り札は最後までとっておくことだ。北村龍平でさえ双頭刃は最後までとっておいたのだから・・・。

 DVDには特典としてメイキングが付加されているが、ここでの木下あゆ美のトレーニング姿は絶品。しゅっとした顎がシャープで麗しい。