La Dolce




木下あゆ美のグラビアアイドルとしてのイメージDVD

 「La Dolce」はすこぶる評判の悪いイメージDVDである。木下あゆ美は素材として愛されているようなのだが、それは常に製作者からの視点からであり、本人の自己実現とはかけ離れたもののように見える。女優・木下あゆ美としては「すべてが演技」で100%OKではあるのだが、イメージDVDはグラビアアイドルとしてのタレント性を売るものだと思えるので、果たして彼女のDVDの真の評価は何を持って妥当とするべきだろうか。写真集の評価は「れもん色の午後」が名実ともに最高傑作との評価である。彼女の様々な表情を捉えることに成功した稀有な作品であることは認める。過激なセクシー路線とばかり巷間噂されるが決してそれだけではないものがある。彼女がカメラを通じてきちんと読者に語りかけている。

 彼女のイメージDVDは2006年までに4作ある。実際の撮影は2005年であるから、2003年から2005年にかけての間に4作品。「Puro」と「木下あゆ美 コラボレーションBOX」の二つはデカレンの撮影が始まった頃で、ほぼ同時期である。

 「Puro」はグラビアとしては平板な出来栄えで、水着のショットもあるが、ジムでトレーニングしている様子が中心で、溌剌としている。犬神家の一族にでも出そうな着物姿での小芝居が雰囲気をぶち壊してしまうのだが、それ以外はかなり良い出来栄え。グラビアビデオとしてはセクシーショットは皆無に近いので、「れもん色の午後」を期待して、買いに走った諸兄を脱力させたと思える。インタビューが台本どおりのリアクションのため、まだまだ演技力不足を感じさせる。自由にしゃべらせた方がより彼女らしさを出せたのに残念。しかしトレーニングのシーンなどは実に自然体であり、ちょっと寂寥感のある手持ち花火のシーンに温もりが感じられる。

 「コラボ」はトレーディングカードとのセットになっていて、DVDはカード写真のメイキングを収めた特典扱いである。こちらのインタビューは自由度が高いが、いかんせんおまけ映像のため短い。これらの2作品はレイズイン時代のものであり、本人の口からきちんと「1984年生まれ」と言ってしまっているDVDだ。事務所の方針とはいえ、忸怩たる傷痕ではある。

 「Lettre」はデカレン卒業後の初仕事といった印象が強く、特典映像でデカレン時代の思い出や今後の抱負を力強く語っていて、好感が持てる。内容は木下あゆ美が過去を清算するために思い出の南の島を訪れるといったストーリー仕立てになっており、物憂い彼女の眼差しが満載。白の水着シーンもたっぷりとあるが、セクシー路線とは言いがたい。作品の中で不倫とは明確に打ち出されていないが、どう考えてもセレブなやり手の青(中?)年実業家でもないとハワイの別荘に愛(恋?)人と長期滞在は出来ないし、独身であれば彼女を捨てるとは思えないので、不倫と断定してもよかろう。そのストーリーとは別にショッピングではしゃぐ木下あゆ美のオフショットや磯遊び、前述のインタビュー、メイキング映像と多彩な作りになっているが、メインのストーリーは哀愁のあるもので、今ひとつ心が晴れない。

 さて「La Dolce」は恋写で有名な野村誠一が木下あゆ美を素材に撮り上げた芸術作品であるが、彼女らしい溌剌とした部分が全く封印された問題作として評判が悪いものだ。セクシーショットも多々あるものの、水着のシーンは全くない。和室や倉庫やスタジオでくねくねと蠢く木下あゆ美の肢体と屋久島の自然の中で途方に暮れたように佇む姿が、(大林宣彦監督の「転校生」を髣髴とさせてしまう)バロック音楽を背景に展開する。木下あゆ美のモノローグが彼女自身の心の旅路を吐露するように囁きかけるのだが、野村誠一の想いを代弁しているだけのように見えて、彼女のパーソナリティが生きているとはいえない。無論、彼女の負の部分を表現しているといえなくもないのだが、観客は彼女の負の面がゆかしいわけではあるまい。所詮は野村誠一の独りよがりなのではないかと指弾されるのは実にその点なのである。しかし映像的には完成度が高く、今までのDVD作品の中では最もビューティフルな木下あゆ美を堪能できる作品であることは間違いない。

 女優として野村誠一の想いを演じることに成功はしているものの、この作品によって木下あゆ美自身はますます本来の個性とは異なった負のイメージを負わされたのではあるまいか。グラビアアイドルのイメージDVDは基本的にはカメラ目線でファンに躍動感や媚態を売るものであり、芸術性だけを追求するものではない。そこには何より本人の個性、本人らしさ(ファンが期待するイメージ=虚像?)が必要だ。観客はバーチャルな理想の恋人をそこに見ているのである。イメージDVDは何よりも被写体こそがメインテーマなのであるから、過剰なストーリー性やテーマはなくてもよい。

 この作品における木下あゆ美は野村誠一の情念を体現化する巫女の役割を演じているに過ぎず、そこには木下あゆ美が存在していないように見える。そこには生鮮な木下あゆ美が感じられない。あたかも死体か人形のようだ。カメラマンの視点が観客の視点になりえず、被写体の演技がカメラマンの意図する像の実現に徹し、自己実現には達していない。観客に迫る、語りかける彼女がそこには存在しない。結局、このDVDでも「救い」は特典部分の彼女の笑顔ということになってしまう。但し、この時は屋久島での撮影のため体力的にハードであったようで、彼女自身のテンションも著しく低いものだった。また時間が短すぎるのも惜しい。

 本来の彼女の陽性なキャラクターを作品の中に生かしたものは「Puro」であるが、総合的には「Lettre」がオフショットやメイキングが多彩であり、完成度が高いというべきか。本編でない部分のが多くある方が、彼女のイメージDVDとして良作というおかしな見解が生まれている。

 場慣れしていなかった事や緊張のせいらしくデカレンの制作発表時のコメントでは、彼女の天然といえば聞こえがいいが、浅薄で不用意な発言が目立った。それらのトークはデカトークを通じて次第に洗練された。「Lettre」以降のインタビューでは落ち着きが見られ、きちんと自分の言葉を伝えられるようになっている。この時に語った抱負(普通のドラマ、映画、舞台、高校生役、明るい役、声優)を二年間ですべて達成していたことは賞賛に値する。2007年の新年の抱負では時代劇への意欲を見せていた。時代劇役者は息が長い。水戸黄門で由美かおるの後を引き継ぐような息の長い役者に成長して欲しいものだ。