ナチュラル・ウーマン2010




ナチュラル・ウーマン2010(2010年、Softgarage)

 大学時代の主人公たちが所属した「裏新聞部」というお手軽な設定。部室や部員の雰囲気。貧相なロケセット。ラストのスタッフの顔出し。8ミリ映画風に画質をアレンジしたシーン。この映画は70年代から80年代に映画を撮りたかった学生たちが作った自主映画のようだ。芝居も脚本も学生映画的なのだ。野村監督は有名な写真家であるので、美しく撮る手腕に文句はないのだが、映画としてなんだったのかは別問題である。やりたかったことはなんだったのか。とかく8ミリ映画へのオマージュを出したがるのは、大林宣彦監督のエピゴーネンと言われかねない。野村監督は味を占めて次回作の準備に入っているということだが、スポンサーや観客の理解を得られるかは微妙なところだろう。主人公をカメラマンにしてしまった辺りを始めとして、監督の趣味が全開の個人映画に過ぎないのだから。アートを標榜するのはよいとしても、エンターテイメント足りえていない。

 ジャンルとしては恋愛映画である。主演がどちらも女性なだけで、さして芝居がうまいわけでもなく、モデルとグラドルがベッドで絡んでますねぇというビジュアル。美しいのかもしれないが、映画的な興奮に乏しい。主人公たちが饒舌に内面を告白してくれるのでわかりやすいが、その青臭いセリフにはどうも感情移入がしがたい。観客の気分が晴れるわけでもないし、スカッとするわけでもないミニシアター向き映画の見本である。一泊二日の取材旅行のエピソードは登場人物たちのそれぞれの下心が見え見えで微笑ましい展開なのだが、そのシーンも含めて英玲奈の明るい存在に映画そのものが助けられていたような感じがする。

 

 さて木下あゆ美は主人公の友達として、大学一年生からスタート。くちばしの黄色い文化系女学生を好演する。特に屋上での頭でっかちな恋愛哲学者ぶりは大いに魅力的だったが、女優陣では彼女が一番女優暦が長いのだから、当たり前か。主要登場人物がみな同性愛者なのに、彼女だけがノーマル。木下あゆ美がある意味ではただ一人のナチュラルウーマンだったという映画になっている。最初から最後までかなり出番が多い役であったが、さほど本筋には絡んでこないのが残念。汐見ゆかりとキャラが被りかねないので回避されたのかもしれない。英玲奈の役を木下が演じても良かったのではないかとも思える。とはいえ、木下あゆ美が地味に脇を演じているのは喜ばしいことだ。

 「野村監督はどうして木下あゆ美の美しさを追い続けないのだ。けしからん。」と不満をもたれた方は同監督作である「La Dolce」をご鑑賞ください。