幻の最終回3



プロローグ

 回収されたマッスルギアの破片に着目するリサ・ティーゲル。「このチップは……裁判所星で採取したチップに似ている。」「えっ。だとしたら一連の事件の犯人は、みな同じってこと?」「びっくりしたなぁ、もーっ。」「大至急、このチップの出所を洗うんだ。」「ロジャーッ。」

デカレンジャー最終回 四部作C

Episode.X4 フェアウェル・マイ・ラブリィ

(1時間スペシャル)

 深夜、雨が降り続く。大衆食堂で日本酒を飲む半白髪の男。力無く入ってくる私服姿のジャスミン。お見舞い用の花束を買いに出た帰りらしい。「おっ、待ってたよ。きれいな花だね。」「あら、コンサバティブな味噌サバのおじさんね。」「礼がしたくてさ。今夜は俺がおごる。ん。お腹でも痛いのか。泣いてちゃ、わからない。」「テツが、私の仲間が、死にかけてるの。大怪我で、もう助からないって。」「………………なんだ、そんなことか。怪我人なら俺に任せろ。お前さんのためなら例え死人でも生き返らせてみせる。」「あなたは、一体。」「知らないほうが身のためだ。俺の手術料は……(夜空を指差しながら)天文学的に高い。」この男こそサムオ星人のBJだったのである。

 裁判所星のマザーコンピューターは全宇宙のスペシャルポリスのコンピューターを支配下にしてしまった。全宇宙のスペシャルポリスはマザーの作る合成映像に欺かれ、その反乱にすら気がついていない。この異変に気づいているのは地球署だけだった。本部への通信はマザーによって傍受妨害されている。

 デカルーム。リサがボスに進言する。「お頭へのホットラインはマザーを介さない特殊回路だ。これでお頭のアニー課長に連絡してみる。」特キョウの課長はお頭と呼ばれるのが慣例であり、現在の課長は初の女性と言うことでも有名だった。彼女は叩き上げの女性捜査官で、伝説の女宇宙刑事でもある。「リサか、ご苦労さま。通信がないので心配していました。鉄幹の様態はどうですか。今手がけている仕事が済み次第、私も地球に向かうつもりでいます。」ボスが緊張した面持ちで挨拶すると、途端に愛くるしい表情を見せる。「おや、地獄のワンちゃん。元気そうですね。」ボスがそわそわし、デカレンジャーたちは唖然。リサが割って入る。「お頭、実は裁判所星のマザーコンピューターに異変が起きています。」「何。」

 デカベースの前にBJを連れてくるジャスミン。BJは妙にそわそわしている。「こっ、・・・ここなのか。患者がいるのは。」「そう。ちょっと、待ってて。」制服に着替えたジャスミンが登場。「そっ、・・・その制服はスペシャルポリス。」「何、目の色変えているの。ひょっとして制服マニア?」病室に入るなり、テツの様態を一目見て、息をのむBJ。冷静さを取り戻す。カルテを要求し、素早く目を通す。「だいぶ、ひどいな。このクランケを救えるのは乙女の祈りだけでは無理だぜ。……オペの用意をしなさい。スペシャルポリスの最高の医療班を集めろ。」喜ぶジャスミン。BJは彼女の持っていた花束の中から一輪の黄色い薔薇を引き抜き、自分の胸に挿す。「これを私の手術代としていただいたからは、これは私の仕事だ。すべて私に任せてくれ。君は君の仕事をすればいい。」

 デカベースの回廊。メディカルルームの外に出たジャスミンは病室に近づくボスに気づいて、行く手を遮る。「ジャスミン。医者を連れてきたそうだが、そいつはまさか。」両手を広げたまま、無言のジャスミン。「ジャスミン。俺たちは刑事なんだぞ。」「ボス。私たちスペシャルポリスにはジャッジを下す権限はありません。宇宙最高裁判所が機能障害を起こしている今、ジャッジはできません。テツの命を救えるのは彼しか………。ボスッ。」「予知能力を使ったのか。ジャスミン……。」首を横に振るジャスミン。「よし、俺はお前を信じる。デカルームへ来い。科学班がチップの解析に成功した。俺たちは今俺たちの出来ることを精一杯するだけだ。」踵を返すボス。ジャスミンがにっこり笑って後を追う。

 マザーコンピューターに仕掛けられたチップとマッスルギアの破片から回収したチップの分析結果が出た。ハンドレット星にしかない特殊樹脂や技術が使われていることが明らかとなる。マッスルギアの製造工場はハンドレット星にあるらしいことはわかったが、そこは私有星であり、スペシャルポリスといえども迂闊には手が出せない。その星の持ち主はサウザン星人ギネーカンだった。ギネーカンはかつてスペシャルポリスに息子をデリートされた恨みを抱いている。彼はデカレンジャーに復讐するためにアブレラへ資金援助をしていた。宇宙マフィアのボス・総裁Xとはギネーカンの裏の顔でもあった。ブンターは直属の精鋭であるSWAT小隊を率いてギネーカン逮捕のためにハンドレッド星に向かった。

 ギネーカン社の地球工場はメガロポリスの北東、ヨリイシティにあった。デカレンジャーが急行する。工場の壁をぶち破るパトアーマー。バトジャイラーが資材倉庫を空爆する。「おのれ、デカレンジャーめ。」アブレラの指揮するアンドロイド軍団が飛び出す。マシンドーベルマンから降り立つバン。「決着をつけるぜ。アブレラ。チェンジ、スタンバイ。エマージェンシー。デカレンジャー。フェイス。オン。」「コールを受けたデカベースから形状記憶宇宙金属デカメタルが微粒子状に分解され送信され、彼らの表面で定着し、デカスーツとなるのだ。」集結するデカレンジャー。「一つ、非道な悪事を憎み。」「二つ、不思議な事件を追って。」「三つ、未来の科学で捜査。」「四つ、よからぬ宇宙の悪を。」「五つ、一気にスピード退治。」「特捜戦隊デカレンジャー!!」しかし、アブレラが強力なマッスルギア守備隊を投入。多勢に無勢で窮地に陥るデカレンジャー。そこへデカマスターの乗ったヘリコプターが飛来する。ヘリの下部に取り付けられたディーリボルバーがマッスルギアを蹴散らす。大地に降り立つ光と影。「並み居る悪を、白日の下に暴き出す、光の刑事デカブライト。」「百鬼夜行をぶった斬る。地獄の番犬デカマスター。」二人のアダルト戦士の活躍で形勢逆転。デカレンジャーの合体技も次々と炸裂し、遂にマッスルギア守備隊を撃破する。

 一人になったアブレラはアブレラロボに乗り込み、デカベースそのものを襲う作戦に出る。デカマスターはいち早くデカベースに戻り、迎撃システムを始動させる。しかし、デカベースではBJによるテツのオペが依然として続いていた。ウメコが叫ぶ。「ビルドアップ、デカベースロボ。」「ちょっと待った。デカベースロボに変形したら駄目。メディカルルームではまだテツのオペが終わってないわ。」着弾や戦闘の地響きでメディカルルームが揺れる。「揺らすな。オペが出来ない。」「怪重機が攻撃中です。」浮き足立つメディカルスタッフたち。「オペを中止して、避難しましょう。」「今、中止したら患者は確実に死ぬぞ。患者は今、死神と必死に戦ってるんだ。オペは俺にとって戦いだ。手術室は戦場なんだ。俺は諦めない。生きようとする命を最後まで見捨てたりしない。」スタッフは再び持ち場に戻る。「よし。止血鉗子を寄こせ。」

 アブレラロボを抑え撃つデカレンジャーロボの中ではデカレッドが声を荒げていた。「怪重機をデカベースに近づけるな。」「デカレンジャーロボだけではパワーが足りないよ。」「オーマイガッ!スーパーデカレンジャーロボならば。」「無理だよぉっ。テツがいなくちゃ〜。」「あっ、デカバイク。」「待たせたな。ノーマルバッヂ。」「待ってました、大統領。」「リサさん。」「よっしゃあーっ。超特捜合体だ。」デカバイクとデカレンジャーロボが合体し、スーパーデカレンジャーロボにビルドアップ。「よし。行くわよ。」「どっこい、どっこい、どっこい。」「一気に押し返すよ。」「今度はパワー負けしないぜ。ベイビィ。」「うおぉぉぉっ。」アブレラロボが堪らず宇宙へ逃げる。「よし、SWATモード・オン。」デカウィングロボに乗り換えて、追跡するデカレンジャー。

 デカバイクのコクピット。デカブライトも追撃態勢に移ろうとするが、ボスから通信が入る。「メディカルルームの近くが被弾した。テツのオペが終わり次第、メディカルルームを射出する。デカバイクで牽引し、安全なメガロポリス中央病院にテツを搬送してくれ。」「人命救助は特キョウの任務ではない。ましてテツは民間人ではなく、特キョウだ。任務の上で死ぬのは本懐だと教えてある。」「民間人の命もテツの命も、命の重さに変わりはない。頼む。」「デカウィングロボのスピードではあの怪重機には追いつけない。」「君はテツのそばにいてやってくれ。頼む。」「……。」「後は俺たちに任せてくれ。」

 宇宙空間。アブレラロボとデカウィングロボの差が広がっていく。「ふっふっふっ、恒星間航行用バーナーのあるアブレラロボに追いつけるものか。」「あぁ、逃げられちゃうよぉ。」宇宙に青い閃光が走る。アブレラロボのアフターバーナーが撃ち抜かれる。たじろぐアブレラ、「なんだ、あの戦艦は。」超次元戦闘母艦バビロスが時空の壁を突き破って宇宙空間に出現する。「デカレンジャーの皆さん。旧式の鑑で失礼します。完全にマニュアルで動かせるのはこの艦艇しかなかったの。」特キョウのアニー課長がバビロスを操艦し、その隣ではスワンがSPDソロバンを手に計器類を制御している。「まさか、コンピューターの代わりを務められる人がいるとは思わなかったわ。」「計算なら、スワンにお任せ。」

デカベースのメディカルルーム。「術式終了。諸君の協力に感謝する。」BJのサポートに回っていたメディカルスタッフから自然と拍手が巻き起こる。奇跡のオペは成功した。テツの心電図が力強く律動する。

 デカルーム。マスターライセンスに通信が入る。「大丈夫か、ブンター。状況はどうだ。」「だいぶ手こずってるが、あと一歩ってとこだ。」苦しげな息の下から、ブンターの声が続く。「クルーガー。さっき、基地から怪重機軍団が飛び出した。行く先は地球らしい。」「なんだって。」「おかげでこっちは仕事がやりやすくなったがな。おっと、お喋りはここまでだ。スワンが無事に帰ったら幸せにしてやれ。あばよ。」「ブンター。ブンター。返事をしろ。」ブンターはSPライセンスの回線を切ってしまった。

 「くっくっくっ。私はここまで逃げて来ていたのではない。私の援軍がもうすぐこのポイントに着くのだ。見るがいい。」宇宙空間に次々と現れる怪重機軍団。「どこから、湧いて来やがったんだ。こんなにたくさんの怪重機。」「怪重機総進撃?」「くっくっくっ。恨み重なるデカレンジャーめ。青い地球を枕に果てるがいい。」数十体の怪重機を前にパトマグナムを構えるデカウィングロボ。しかし、あまりにも敵が多すぎる。その時、背後からデカベースロボが飛来する。「ボス。」「クライマックスには間に合ったようだな。これが地球署最後のヤマだ。派手にやろうぜ、みんな……。バン。ジャッジメントだ。」「無駄だ。デカレンジャー。私はデリートされない。宇宙最高裁判所のジャッジの上でないと、お前たちにはデリートする権限などないのだ。」スワンがにっこりと笑って手のひらから、コンピューターの部品らしきものを床にはらはらとに落としていく。「残念でした。あなたが仕掛けたギネーカン社製のウィルス入りチップはすべて取り除いちゃいましたよ。ウィルスチェックもすでにパーフェクト。マザーコンピューターはもう健康よ。」

 「勧善懲悪、一網打尽。武器商人、エージェント・アブレラ。武器、麻薬の密造密売、殺人、殺人教唆、殺人未遂。及び、宇宙最高裁判所マザーコンピューターへのハッキングの罪でジャッジメント。」「ジャッジメントタイム。」「スペシャルポリスの要請によりアリエナイザーに対しては遙か銀河の彼方にある宇宙最高裁判所から判決が下される。」シグナルに動揺するアブレラ。「デリート許可。特捜変形、デカウィングキャノン。SPライセンスセット。コントローラーモード。」万感の思いを込めてアニーが叫ぶ。「バビロス・シューティングフォーメーション。」デカウィングロボとバビロスはそれぞれガンタイプに変形する。宇宙空間に巨大な二丁の銃が現れた。デカウィングキャノンを右手にバビロス・シューティングフォーメーションを左手に構えるデカベースロボ。

 「一触即発。百発百中。狙いは頼むぜ。相棒!」「相棒って言うな。でも、ガンさばきは任せる。…相棒。」「よっしゃあ。一気に行くぜ。」デカベースロボの全エネルギーが二丁の銃に込められる。「ファイナルバスター!」「超次元波動砲!」「フルブラストアクション!!」デカベースロボの二丁拳銃が次々と怪重機を打ち抜いていく。「超次元ファイナル波動バスターッッッ!!!」散華するアブレラロボ。デカレンジャーが叫ぶ。「ゴッチュー。」

 メガロポリス中央病院。BJは手術室を出ると、素早く着替えて、玄関へ向かう。行く手に立ちはだかるリサ・ティーゲル。BJが肩をすくめる。「タフな坊やだった。二億クレジットは頂きたい難手術だったよ。」「BJ。」「その金バッヂ。リサも偉くなったもんだな。特キョウが相手じゃ逃げも隠れもできやしないか。」「自惚れるな。特キョウの使命は特別指定凶悪犯を追うことだ。お前のような小物など眼中にない。立ち去れ。」「ふふふっ。あばよ。」「待て。……ありがとう。先生。」リサの目に光る涙。黒いマントを翻し、BJは立ち去る。病室に入るリサ。テツの寝顔を優しく見つめる。

 マスターライセンスに通信が入る。「俺だよ。ブンターだ。ギネーカンを逮捕した。こいつにはあっさりデリートするより、囚人生活を楽しんでもらわなくちゃな。俺の活躍を描くだけで正月映画が三本撮れるぜ。ぐわっはっはっはっ。」「これにて一件、コンプリート。メガロポリスは日本晴れ。」

 喜ぶデカレンジャーたちにボスが地球署の廃止を告げる。「正式な辞令が下りた。俺はヌマ・O長官の後を引き継ぎ、宇宙警察の本部長に就任する。今後は地球に宇宙警察の本部が置かれることになる。地球署のデカレンジャーはここに解散を宣言する。」

エピローグ

 「ボスからディーソードベガを託され、バンは本部の捜査一課に勤務。宇宙一のスペシャルポリスにまた一歩近づいた。ホージーは特キョウに栄転。憧れの金バッジを手に入れ、恋人との仲も修復したようだ。センチャンは難事件処理課、通称迷宮課の課長に昇進。謎めいた事件を次々と解決している。ウメコはマーフィーとともに交通課係長に昇進。元気に駐車違反を取り締まっている。全快したテツは史上最年少で特別指定凶悪犯対策捜査6班の班長に就任した。白鳥スワンは科捜研所長を拝命。近く結婚するらしい。ジャスミンは宇宙警察を退職して昔からの夢だった芸能界入りを果たした。かくして宇宙警察地球署、特捜戦隊デカレンジャーの物語は完結した。ありがとう、デカレンジャー。さようなら、特捜戦隊デカレンジャー。」

大団円。

♪エンディングコント♪

 デカルーム。ウメコが本の紹介をしている。「はい。これがジャスミンの写真集。『SPD隊員服を脱いだ私』。目下メガヒット中。」ポーズを取るジャスミン。「うっふーん。セクシーショット満載よ。」群がるデカレンボーイズ+マーフィ。「どれどれ。アンビリーバボー。ダイナマイツ。」「見せろ。相棒。」「見せて貸して触らせて。」「僕にもお願いしますよ。」「ワフーン。」。マーフィが写真集を咥えて逃げ出す。追いかけるデカレンボーイズ。大騒ぎ。興味ありげに伸びをするボスの目をふさぐスワン。カメラの前に身を乗り出して微笑むジャスミン。「みなさんも、買ってね。」

おわり

 前回の「ザ・アンソルブド・ケース」に味を占めて、「こんなデカレンジャーの最終回を見てみたい」を作り上げてしまいました。最後は戦隊物らしいアクション巨編となりましたので、この突然出てきたアニーって?という元よい子のみなさんも満足して頂けるのではないかと思っています。BJを見送るのは当初はボスの役回りだったのですが、二丁拳銃がただ宇宙に浮かんでるよりも、誰かが撃つ方が絵になる。撃つのはデカベースロボしかいない。となるとリサ・ティーゲルがBJを見送るしかない。苦肉の作劇でしたが、ラストの派手なアクションを優先して変更しました。ホージーとテレサのシーンも入れたかったのですが、ラストのテンポが悪くなるので割愛しました。さて、あなたのハートには何が残りましたか。戦隊物って本当に素晴らしいものですね。デカレンジャーのような熱い夢を。では、皆さん。またお会いしましょう。さよなら、さよなら。さよなら。(2004.11.29)