終ワラヌ




頭狂23区外 終ワラヌ(2003年、オルスタックピクチャーズ)

 明日起こることの夢を見るというのは「時をかける少女」と同じ手法だ。夢の中で夢を見続ける少女というのもいかにもありがちなストーリーである。その点にオリジナリティがないと指摘する気はない。そこまではよくある話だからである。オカルトやホラーに科学的な根拠は必要ない。しかし、このドラマはでたらめだった。その現象の因果関係を説明してくれないし、観客に納得させてくれない。

 無意味に殺人鬼に襲われるホラー映画もあるが、怖がらせる演出をそれなりにはするものである。このドラマの場合は怖がらせるポイントが外れている。主人公自身が恐怖を感じるというポイントがないのだ。イジメや死が自分に降りかかってくるのではないかという予感を恐怖と感じさせる演出が弱いのだ。主人公の少女が顔をしかめるだけでは、恐怖は伝わらない。主役のアイドル女優の演技力の未熟さよりも、責任は監督にある。

 木下あゆ美は女子トイレで集団リンチにあう役である。上からバケツで水をかぶせられるという派手なイジメだ。イジメを扱ったドラマは見ていてやりきれなくなる。しかも、ここがこのドラマの見せ場らしく延々と陰湿に続くために、見ていて気分が暗くなる。すると突如、木下あゆ美がその囲みを破って逃げ出す。走る。走る。走る。学校の廊下を駆け抜け、校庭を駆け抜け、川沿いの道を、商店街を、裏通りをと、これまた延々と走り通す。恐ろしい持久力である。まるでケムール人のようだ。いじめっ子グループは堪らずリタイアするが、主役のアイドル女優だけが追走する。行き止まりで立ち尽くし、振り返る木下あゆ美。息も切らしておらず、平然と微笑む。怖いといえばこのシーンが一番怖いかもしれない。しかし、この間の演出は一体なんだったのか。能天気に軽快な音楽に乗って女子高生に追いかけっこを延々とさせるとは…。とはいえ閉塞感たっぷりなこのドラマの中で唯一の開放的なアクションがこのランニングシーンだった。木下あゆ美の走っているフォームは見ちゃいられないといった感じだが、頭ひとつ分、身長も演技力も彼女が抜きん出ていたと言うべきである。

 このドラマの中で一番の演技巧者は木下あゆ美だった。どの俳優よりも、彼女が一番芸達者である。DVDには僅かだが、メイキングが付されている。それによると追いかけっこのシーンで主演女優たちは顔合わせをしたらしく、スタッフが女優同士の紹介している。「黒木繭役の木下あゆ美さんです」とスタッフが紹介しているので、既にこの撮影の時は藤澤あゆ美ではなく木下あゆ美に改名していたことが確認できる。ロケバス内のオフショットでにっこり笑う木下あゆ美の姿が一瞬捉えられていて癒される。