経理女(2005年、カルチュア・パブリッシャーズ/トルネード・フィルム)
オムニバスホラービデオの一編。幽霊より怖い話Vol.3に収録されている短編作品である。幽霊の恐怖よりも人間の狂気の方が怖いというコンセプトで作られているホラービデオなのだが、正直言ってこのシリーズは低予算はともかくもあまり面白いものではない。幽霊ビデオ的な怖さも別にない。考えてみれば木下あゆ美の出ている作品はほとんどがこの手の作品である。グラビアアイドルとホラー映画は艶がある。日本に限らずホラーとエロは切って見切れない関係にあるわけで、観客の多くは多くは若い男性であると思われるので、ホラー映画に美女はつきものなのだ。キャーキャーッと騒いだりしているだけならば、特に演技力は必要ないので、未熟な駆け出しアイドル女優には持って来いの企画なのだろう。
さて、「経理女」は木下あゆ美がデカレン以降に登板したホラームービーである。また初の主演ドラマでもある。タイトルからして「電車男」を意識した作品である。2ちゃんねるらしい掲示板に自分の不倫体験を書き込む女性のハンドルネームが「経理女」であるという趣向である。低予算で、有名な俳優は出ていないのだが、この一編はなかなか手堅い。なにより、木下あゆ美の演技に格段の成長が見られる。デカレンにおける一年間の東映生活は彼女に多くのものをもたらしたというべきだ。
孤独なOLである経理女は会社の上司と不倫2年目に突入。無論、世間には内緒のために、その顛末を掲示板に書き込むことで心の隙間を埋めている。上司は経理女の前では妻との離婚をほのめかすものの、本音は火遊びとしてか考えていない。木下あゆ美の得意な愛人役である。「姫」の時は平凡な不倫OLに過ぎなかったが、今回の経理女にはひたむきさがある。経理女は本当に愛情に飢えているのだ。ファーストシーンで、自分のアパートを出て行く上司を見送る経理女の眼差しは薄幸な切なさに満ちている。その雰囲気は居住まいによく浮かんでおり、かなりの演技力の向上が見られた。このネガティブな愛人キャラを彼女はこの作品以降は封印してしまうので、彼女の愛人ぶりが拝めるのは2007年現在では最後の作品と言える。経理女はネットの掲示板の住人たちに苛まれ、破局を迎える。今のネット社会の恐怖をひとつの形にしている点でもウェルメイドな一編に仕上がっている。
この作品と次の「恐怖のダイエット」以降の彼女は髪をショートにしてしまうので、ロングへアの彼女が忘れられないファンにとっても貴重な一編であり、木下あゆ美主演の最高傑作かもしれません。