近未来予報 ツギクル




木下あゆ美の集大成「私の後に朝が来るのよ」

 2008年、木下あゆ美のベストワークといえるのは「近未来予報ツギクル」であろう。ブログ件数を分析して、これから流行するであろうものを予測するという情報番組なのだが、ディレクターがフジテレビの異才、福原伸治なのである。ウゴウゴルーガで一躍名を売った彼は新しい表現形態を模索するチャレンジスピリッツに溢れている。その冒険心の赴くまま、木下あゆ美をドSの女王様キャラに仕立て上げて、メインパーソナリティに据えるという暴挙に出た。

 ここでの木下あゆ美はいわゆる「木下あゆ美」を猛然と演じる。彼女はバーチャル空間のようなワイヤーフレーム状の教室セットで、アニメキャラであるデレラ(声 相川梨絵)に命令して、流行を追わせる。木下あゆ美一人しか画面には存在しない。木下あゆ美のいらついたとげのある口調に対して、常におっとりとした茨城弁(弱い水戸弁)で返すデレラ。依頼人はテレビでそれを見ながらチャットの形で彼女と絡むのだが、女王様に仕える下僕の扱いを嬉々として受け続ける。視聴者はあたかも自分が依頼人であるかのように錯覚する仕組みになっている。そして木下あゆ美がカメラ目線で依頼人=視聴者を睨み、視聴者が木下あゆ美との対話を楽しむ構図がそこに完成する。

 

 ブログを解析して未来の流行物を探るというコンセプトは悪くない。その点から言えばまさしく凡百の情報番組なのだが、それを木下あゆ美の一人芝居で見せるところにこの番組の強烈な個性がある。深夜枠というフットワークの軽い時間帯を利用した実験的な番組である。木下あゆ美の演じる「木下あゆ美」像は、Aチャンの「木下あゆ美」をより本格的な女王様に発展させたもので、完全に作り込まれたキャラクターである。だから、決して木下あゆ美のパーソナリティーと被るものではないので、彼女にとってこの仕事は情報バラエティ番組のメイン司会者としてのものではなく、あくまでも芝居の上での役に過ぎない。彼女の演じる「木下あゆ美」は回を追う事にコメディエンヌぶりを発揮し始めているので、この仕事が彼女の演技力向上に一役買うことを期待したい。

 2008年8月にはインターネットを通して素人と生放送で絡ませるという無茶な企画にも挑戦。あえなく大失敗に終わったが、その蛮勇には頭が下がる。ワンクールで終了するかと思われる企画だったが、いよいよ4クールへ突入する。本放送終了後に一週間だけだが、ストリーミング放送をしてくれるのも画期的だ。今後も是非続けて欲しい。