1st・ミッション


支店の事件簿


リリウム学園殺人事件を解決せよ。

 礼紋探偵社地球支店は依頼があればどのような事件の捜査にも乗り出します。2007年に起きたリリウム学園殺人事件において、調査依頼を受けた地球支店は支援者たちの協力のもと、無事、事件を解決しました。この事件に関しては依頼者から懸賞金が出ていたこともあり、各探偵社の方たちも事件解決に尽力していましたが、名探偵の栄誉をいただいたのは我々でした。当時の事件を扱ったBBSのログを元に、そのクライマックスのやりとりを再現しました。

調査報告書を送信。  投稿者:支店長  投稿日:2007年11月30日(金)22時22分17秒

 礼紋探偵社・地球支店より、ただいま調査報告書を送信いたしました。社長のサイコメトリーを頼ることなく、地球支社の支店長が太鼓判押しての調査報告書であります。ちと分厚くなってしまいましたが、超過料金は一切いただきませんので、ご安心ください。では、解決篇を楽しみに。



礼紋茉莉花です。  投稿者:礼紋茉莉花  投稿日:2007年12月 2日(日)00時16分35秒

 当社の地球支店長が本店に調査報告書の写しを転送してこないものですから、間違いがあってはと思いアクセスいたしましたが、もはや解決へ向かったご様子。お喜び申し上げます。

 犯行のあった晩は新月だったと聞いております。西式様は事件の関係者を調整室に呼び出して、名探偵らしく「昨日の晩、学園長を殺害したのは、君たちだろう?」なんておっしゃっております。が、関係者を呼び出したのは22時とのこと。地球では三日月でさえ日没後、二時間程度で西に沈むものでございましたよね。新月の翌日の22時に「月光に照らされて、中庭のガブリエル像が長い影を落と」すことはできないと存じます。

 月齢詐称でしょうか、年齢詐称ならば私も経験がございますが、早めのご訂正がよろしいかと…



こちら京都府警  投稿者:音川音次郎  投稿日:2007年12月 4日(火)07時23分42秒

 >ユリの君達は学園長にこのような矛盾や不自然さを感じさせない

 京都府警の音川だす。(うどんを食べている。)学園長にはユリの君の言うことなら、なんぼでも信用してまうわけがあったのやおまへんか。そんなことよりも課長、このユリの君の逮捕状をとっといておくれやす。わしは本気だす。そう、この子の本当のてておやは……  



こちらS.P.D地球署  投稿者:江成仙一  投稿日:2007年12月 5日(水)21時51分55秒

  よい子のみんな、お久しぶり〜。実はコナンくんにも勝利したことがあるS.P.Dセンチャンですよ〜。

 西式さんの話はジャスミンから聞きまして、ちょっと興味を持ちました。西式さんの推理では学園長が西式さんを不審者だと誤解して、異変を知らせるために鐘を鳴らしたということですけど、それはどうかなぁ。西式さんはユリの君の合図を見て、すぐに走り出したと言ってましたよね。「美智佳の部屋から光の合図があった。かじかんだ身体も忘れて、西式は即座に走り始めた。その瞬間、新たな異変が起こった。キーン コーン カーン コーン。」即座と瞬間が連続してますけど、この短い間に「間」があるとすれば、鐘が鳴り響いていたときだけですね。西式さんの足が止まったかもしれません。でも、問題なのはですね、学園長が時計の針を動かすのに何秒かかったかなんです。

 目覚まし時計の針を回すのではないですよ、大時計の針ですよ。ハンドルを一回転させると、何分進むと思いますか。時計塔の長針を七回転させるためには相応な時間がかかったはずです。その間にも西式さんは周囲に注意を払いながら聖堂に向かって走っているわけですから、猛スピードで回転する長針に気がつかないはずはないですよね。しかも、西式さんが全力で走っていたのならば扉にたどりついていてもおかしくない。なぜなら学園平面図を見る限りにおいて、ガブリエル像と聖堂との距離は学園の正門の広さくらいの距離しか離れてませんから。

 扉の前に立ったら、時計の文字盤どころか調整室の中だって、見ることはできません。西式さんは足がすごく遅いんですかねぇ。西式さんはスペシャルポリスには向かないなぁ。

 西式さんの推理通りならば、時計の針が七時を指していたのに西式さんが気がつかなかったことになります。文字盤が見える位置なのに見えなかったのは、新月で文字盤の周辺が暗かったからとしかいいようがありません。あれれっ・・・だったら、もっと暗いはずの調整室の中の様子が西式さんに見えるはずがないんだけどなぁ。 おかしいなぁ。・・・ちょっと逆立ちしてもいいですか


ユリの花の美女投稿者:支店長 投稿日:2007年12月 7日(金)21時54分29秒

 突然、聖堂内の明かりが消えた。

「きゃあ、お姉様」

 聖子の叫びに続いて、落ち着いた声がした。

「動いてはいけない」

 しばらく暗闇での沈黙が続いた。ここに男性は自分以外はいないはずだと西式は思ったが、落ち着いた男の声には有無を言わせぬ迫力があった。声は続く。

「皆さん、動いてはいけない。その場でじっとしていなさい」

 誰の声だったか…西式は聞き覚えのあるその声の主に思い当たって、戦慄した。

 美智佳の震える声がした。

「学園長………」女の子の悲鳴がした。

 足下に白い人型が浮かび上がっている。

 パニックに陥るユリの君たち。

 ぱっと室内が明かりがともった。床には白いロープが倒れていた学園長の姿そのままに人型を作っている。

 ユリの君たちの視線が出口に向いた。そこに立っていたのは、学園長その人に見えた。

 ユリの君たちはパニックを通り越して、声を発することもなく固まっている。

「君たち、驚かせてすまない。しかし、恐れることはありません。君たちが殺人犯ではないことは私が証明した通りです。昨晩、私がこの部屋に入った時、最初に気づいたのが白いロープの罠でした。暗闇の中でも室内に張り巡らされた白いロープの罠は目に入ってしまうものです。ロープによる遠隔殺人などは机上の空論にすぎなかったのです。この脅迫状の意味も、あの罠を見ているうちにわかりましたよ。両隣のユリの花が中央の花の首を落とす。二人が一組となって殺人を犯すことを示唆したこの脅迫状。このアイディアを出した人こそが真犯人に違いないのだと。君たちにに自分たちこそが殺人犯であると思いこませたところが、この狡猾な真犯人の悪魔のような知略だったのです。遠隔ロープによる殺人でないのなら、事件の時に犯人もこの室内に存在したことになります。西式さん、アリバイが確実と言えないのはだれでしたか」

西式は男の迫力に完全に色を失い、問われるままに記憶をたどる。

「僕はあの時、美智佳さんと奈留さんを見ました。彼女たち二人はこの部屋には存在できません。それ以外の二人一組となると、まさか」

「その、まさかです。もう一方の二人のユリの君たち。しかし、いくら私でも小学生のユリの君に絞殺されるほど耄碌はしていないつもりです。真犯人はユリの君、いや、ユリの君だった女性と言うべきか……」

 楽しそうに様子をうかがっていたモエコが鐘楼の階段からとんぼを切って床に降り立った。

「おいちゃんたら相変わらずだなぁ。段取りが長いんだよ。ったく、仕方がないね。おれが切っ掛けを与えてやるよ。『お……お前は誰だ』ってね」

「くくくくっ」と学園長、いや、学園長の仮面をかぶった男は笑いだした。

「さすがはモエコくん。ミステリを楽しむ心得をよくご存じだ。ミステリはロジックも大切だが、もっと大切なのはエンタメだということを……」

 学園長の仮面をかぶった男は自分の右手を左のあごの部分にあてがい、びりびりと人工皮膚の仮面を破り始めた。  



麻雀探偵団1  投稿者:支店長  投稿日:2007年12月 9日(日)13時02分18秒

 礼紋探偵社裏の雀荘「茉莉花」では麻雀大会が開かれていた。

「やっぱ、あのガキのてておやはわしの睨んだ通り、殺されてましたがな…。おい、センチャン、それドラやぞ」

「あっいけない。音川さん、早く言ってくださいよ。もう…。しかし、アリバイのない菅野さんに誰も着目しないのは不自然でしたよね。はじめに学園長の性行に気がついたのも彼ですしね。彼は実質的に学園の経営を牛耳ってます。聖堂の鍵のスペア作る機会はいつでもあったはずです。年齢的に見て、亜希子さんと釣り合いが取れなくもありません。学園長をスキャンダルで追放して、学園を乗っ取るプランだったというのはどうでしょう。あっ明智さんハヤヅモはいけませんよ。僕がカンするんですから…。」

「すまない、江成くん。でも、可能性だけで人を容疑者扱いしてはいけない。物証に乏しいとはいえ、状況証拠も抜き差しならない確実なものでないといけない。古畑くんも言っていたが、一番不自然なのはバレンタインディの写真だったかな。あれはスナップ写真に見えたからね。撮影会と違って三脚とレリーズでというわけにはいかないはずだ。むしろ問題とすべきはあの写真だったんだ」

「あれも偽装ということかいな。まっこの事件のホンボシやったらやりかねんわな。全く、キッツイガキやったなぁ。おい、支店長。(捨牌が)遅いやないか。はよ、捨てなはれ」

「これ、あがってますよね」

 支店長は自信なさげに呟きながら、手牌を倒した。  



麻雀探偵団2  投稿者:支店長  投稿日:2007年12月 9日(日)21時21分40秒

「音川さんはさっき。睨んでた通り、あの子のてておやが殺されたって言ってましたけど。それって自宅で焼死したことになっている聖子くんの父親のことでしょう」

「ほかにあの子のてておやがおるかいな」

「でも、それって前から睨んでたんですか」

「そんなもん。誰だって口に出さなくとも睨んどったやろ。あのメイド探偵かて、そう言うてたやないか」

「いえ、だから殊更に『てておやはわしの睨んだ通り』なんて言わなくとも…その、よかったのではないかと…」

 沈黙した音川をかばうように明智が口を挟んだ。

「江成くん。音川さんはね、奥さんを亡くしてから娘さんを男手一人で育て上げられた苦労人だ。だから父と娘のことに関しては発言がどうしても微妙になってしまうんだろうねぇ。それに殺されたのが彼女の本当の父親だと音川さんは思っていないようだしね」

「明智さん!音川さん、それ本当なんですか」

 音川は頭をかきながら、

「こっちの話はまだ言わないつもりだったんや。裏もとれとらんことやし。いくら殺人機械のような娘かて、実の父親を殺そうとするなんて、わしには信じられへん。いや、信じたくないだけなのかもしれんが」

「つまり、音川さんは何が言いたいんですか」

「そもそも自分の娘をテロリストにする親父がどこにおるかい。彼女をイタリアで育てていたのはこの子の本当の親やないとわしは思うとるのや。この子の本当のてておやは…」

 興奮した音川は無意識にドラを場に捨てた。

 支店長がすかさず手牌を倒す。「ロン。三色ドラ3」  



ユリの花は散ったよ  投稿者:支店長  投稿日:2007年12月10日(月)22時39分35秒

 明智小五郎(天知茂)の乱入で手狭になった調整室に、さらに校医の三戸亜希子が飛び込んできた。

「明智さん。もうおやめください。ご推察の通り、学園長を殺めたのは私です。私と聖子はあの晩、機械室に隠れて内部から完全に施錠して、中に閉じこもっていたのです。西式さんと瓦崎さんをやり過ごした後で、聖子と私はこっそりと階段を下りて、さも階段をたった今駆け上がってきたかのような騒ぎを起こしたのです。美智佳さんたちは自分たちこそが犯人であると思いこんでいるだけです」

「先生」

 大粒の涙をこぼしながら聖子が亜希子に抱きついた。

「この子はテロリストなんかではありません。聖子がイタリア帰りだからといって、即テロリストと結びつけるのは間違いです。この子たちは皆、犯罪者などではありません」

 美智佳と奈留も彼女に抱きついて、ひとしきり愁嘆場が続いた。狭い調整室にその時八人目の人物が折りたたみ傘を持ちながら入場してきた

「みなさん、おばんです。京都府警の音川だす。どうや、もうええやろう。本当のことをいいなはれ」

音川の視線はユリの君に囲まれた亜希子に注がれていた。

「亜希子先生。あんたが犯人のはずがない。あんたと聖子はこの鐘が鳴るまで、医務室におったんでっしゃろ。この風邪引きの多いシーズン、全寮制の学園の校医は大忙しやったはずや。宵の口から深夜までひっきりなしに子供たちが校医室に詰め掛けてくる。とてもやないが学園長の先回りをして聖堂内に隠れとるなんてことはできやせんのです。しかもパジャマの上に白衣を羽織った姿で、この寒空の下で耐えられるわけあらへん。直接手を下したんは、メイド探偵の推理通り、美智佳と奈留、お前たちやったんや。無論、学園長はすべてを承知の上ですすんで罠にはまっただけや。てておやいうもんはな、実の娘が命をくれっていうのやったら、喜んでくれてやるもんや」

 西式はさすがに驚いて、音川に詰め寄った。

「実の娘って、まさか、学園長が」

「そうや。聖子の本当のてておやは学園長やったんや。そもそも聖子って何や、聖なる子供やろう。キリスト教で聖なる子供って誰や。キリストやろ。子供の母はだれや。マリア様や。この学園でマリア様に相当するものは誰や。ユリの君しかないやろ。それも初代のユリの君。それは三戸亜希子先生、あなたや。学園長は十一年前、ねているマリア様とこの聖堂で結ばれた。その時の子供の成長した姿が聖子や。来栖聖子。お前をこの学園に呼んで養女にしようとしていたのは学園長の愛なんや。罪滅ぼしだったんや。親子の名乗りを上げることはまだでけへんが、いずれはしようと思っていたのやろ。その思いから学園長は実の母親である亜希子先生を校医として学園に招いた。いつかは親子の名乗りを上げて、三人で暮らすのが学園長と亜希子先生の願いやったんや。確かにお前は物心もつかんうちに養女に出されてしまった。父親は学園を守ることに必死だった。母親は医師になるという夢があった。自分たちの夢を守ることを優先にしたかもしれん。せやけどな、最後はお前の幸せを願っていたんや。だから、学園長は自ら進んで命を投げ出した。亜希子先生はお前の罪を背負おうとした。この二人はほんまにお前を愛しとったんや。お前が美しいからやない。他の人間のようにお前の見てくれを愛してたんやない。お前の存在そのものを愛してくれる人間がここにおったのや。それなのにお前は実の父親ということを知らんかったとはいえ、殺してしもうたんや。実の父を殺し、母に罪を背負わせて、それでもお前には守らなあかんものがあるんか。それがいったいなんぼのものや」

 聖子は無表情のまま立ち尽くしている。視線は床に注がれたままだ。その床から次第に白煙が昇り始めた。明智小五郎(天知茂)が叫んだ。

「いかん、火薬の臭いだ。みんな、聖堂から逃げるんだ」

 一同がわらわらと出口に殺到する中、聖子は一人静かに鐘楼へのはしごを上り始める。亜希子がそれに続こうとするのを西式が背後から必死に抑えながら、モエコに叫ぶ。

「モエコちゃん、聖子ちゃんを早く止めて」

「無理だ。西式。殺人機械が動き出したら、とめられやしない。それよりも亜希子を担ぎ出すことが先決だ」

 モエコが亜希子と西式を調整室から押し出した瞬間、火の手が上がり、調整室が紅蓮の炎に包まれた。熱風がすべてを弾き飛ばす。一同は先を争って階段を駆け下りる。続いて、第二の爆発が機械室を中心に起こった。続いて、キャットウォークが爆裂し、轟音とともに落下する。ユリの君たちが暮らしていた部屋に火の手が回る。聖堂を脱出する一同を追い立てるように、小爆破が正確に連続していく。

 西式たちが中庭のガブリエル像の周りにたどりついて、振り返ったとき、天地を揺るがすような大振動が起こった。聖子とモエコを残したまま、聖堂が火を噴きながら、ゆっくりと斜めに崩れ落ちていく。



クライマックス  投稿者:支店長  投稿日:2007年12月11日(火)21時39分52秒

 炎上する聖堂の裏手の崖を猿のように身軽によじ登る影があった。影は崖を登り終えると木立の中に足を踏み入れた。冬枯れの林は閑散としている。ふと背後に気配を感じて振り返った。

 聖堂から立ち上がる炎をバックにミニスカメイドのシルエットが浮かぶ。シルエットが身構えながら、言い放つ。

「相変わらず、あんたの花火は美しいな。芸術的だったとほめてやるぜ」

 来栖聖子は外国人っぽい手つきでお手上げのポーズをした。

「変装探偵に人情デカ。土ワイなおじ様たちを欺くことはできても、あなただけはやはり無理でしたか。ふふっ、あなたがもっさりしたメイド姿でこの学園に現れたときは驚きましたわ。何にも覚えてらっしゃらないご様子でしたし、ちょっとお顔もいじってらしたみたいでしたから、別人かとも思ってました。でも司祭室で奈留お姉さまの攻撃を事も無げにあしらわれましたわよね。あの動きで確信しました。やはり、あなただったと・・・。あなたのために私の組織の受けた痛手は大きいものでしたのよ。この3年間、一体どこに雲隠れしてらっしゃったのかしら」

「オート・マータ(自動人形)。それがお前のコードネームだったよな。一体、お前の年齢は幾つなんだ。しかし、11歳に化けているとは恐れ入った。化け物め。本物の来栖聖子をどうしやがったんだ」

「ふふふ。私があなたにお話すると思ってらっしゃるの」

 オート・マータはじりじりと間合いを詰めた。モエコは背後に崖を背負っている。モエコが先手を打って放った正拳をかいくぐり、体を入れ替えながらオートマータは右肘でモエコの肝臓を打った。そして蜘蛛のようにモエコの背後にするりと回ると、左手首のブレスレットからチタン合金のチェーンをのばす。流れるような動きでモエコの首にそれをかけようとする。しかし、モエコは体を大きくそらして危機を脱した。

 燃えさかる炎をバックにオート・マータが残忍な笑みを浮かべる。その横顔は限りなく美しかった。オート・マータがチェーンを振るとモエコのカチューシャが切断され、前髪がひたいにはらりと落ちる。

 大きな爆裂音が聖堂内部から響く。消防車や救急車のサイレンと赤色灯がリリウムの丘を目指して近づいてくる。

 モエコは体重差が100キロもある巨漢をさえ打ち倒したことがある。しかし、自分よりも小さい敵と戦ったことはない。否、かつて一度だけあるが、無残な敗北を味わっている。その時の相手こそ…。

「今夜は失神程度では済ませませんよ。あなたの首には組織から莫大な懸賞金がかかっておりますしね」

 オート・マータは自在にチェーンをしならせ、連続して打ち込んでくる。木立の間を縫って正確な斬撃が続く。盾代わりにした枝や若木が容赦なく切り飛ばされていく。モエコの細い襟首くらい一撃で斬り飛ばすであろう切れ味だ。

 守勢に回ったモエコが風倒木に足をとられて体勢を崩した。一気に間合いが詰まる。肉を切らせて骨を断つ。モエコが捨て身の攻撃に転じた時、一瞬、チェーンの動きが躊躇した。

 「?!」

 猫(タム・ルゥ・ティア)だった。3匹の猫がオート・マータの足元に飛び出した。彼女がそれらを猫と視認する僅かな間隙をついて、モエコが彼女の懐に飛び込んだ。激突音。そして静寂。

 紅蓮の炎を背景に、二人の動きが止まった。

 遠目では二人の美少女がひしと抱き合っている塑像のようにしか見えない。


 やがて一方の影がゆっくりとひざまづき、地に伏した。

                                        終



タキシードが似合う男  投稿者:江成仙一  投稿日:2007年12月15日(土)11時24分57秒

 最後のスペクタクル場面。聖堂の扉が崩れて脱出不能のピンチに、変身した僕が壁をぶち破って、飛び込むつもりでした。そしたら、明智さんたちに土ワイの雰囲気をぶち壊すから、明日の朝ま待てと言わてしまい、僕の出番がなくなっちゃったんです。発表祝賀会には僕も参加させていただきますので、今、クリーニング屋までタキシード取りに行ってきます。では、今夜のパーティで。あっと遅番をテツに代わってもらわなくちゃ。  



タキシードが似合う男2  投稿者:江成仙一  投稿日:2007年12月17日(月)18時35分21秒

 タキシードの準備をしていたら、誰かとデートする準備だとウメコが思いこんでしまいました。ウメコがジェラシーのあまりタキシードをボロボロにしてしまいました。正直、ショックです。音川さんも意気込んでいた30作記念作品のことを、どっぷり「人情刑事」だと大吉GUYさんに非難されて、すっかり意気消沈しています。今度の三連休ですかぁ。ウメコへのクリスマスプレゼントのために金欠で、タキシードは用意できませんが、よろしいですかね。  


エピローグ  投稿者:支店長  投稿日:2007年12月24日(月)08時48分39秒

 試合を終えて控え室に戻ってくる支店長。

 控え室で待っていた明智小五郎(天知茂)が声をかける。

「ナイスファイト。無事、チャンピオンベルトを守りましたな」

「……」

「チャンピオンに必要なことはタイトルの防衛だよ。若い挑戦者相手に10回戦を戦って、判定に持ち込んだ。君の勝利じゃないか。まっ君だけ11回戦まで戦って大いに空振りしていたようだがね。おっと、余計なことを言ってしまったかな。許してくれたまえ」

 素早く身支度を整えた支店長は一人武道館を後にする。


秒速5センチメートル ラスト

 師走の夜の町に北風が吹いた。

 力無く九段の坂を下りながら、かじかむ手で携帯電話を取り出す。

 「あっ、社長。観ていてくださいましたか。無事、防衛を果たしました。チャンピオンベルトは今回も礼紋探偵社のものです。はい、内容はともかく勝利は勝利ですから。判定といったってカメダと違いますから。カメダとは。……あっ本当は観てなかったんでしょ。社長〜。それより、今日はクリスマスイブですよね。賞金も手に入りましたし……。あっ、そうですよね。社長はお忙しいでしょうし。星(屑)の彼方にいらっしゃるんですものね。わかりました。社長…。私は……、私はですね。社長のことをずっと………」

 突然電話が切れた。

 支店長があわてて携帯を確かめると電池切れサインが点滅している。

 恒星間通信は電池を激しく消耗するのである。

 肩を落とした支店長は千鳥ヶ淵前の歩道を神田方面へとぼとぼと歩き始めた。

 支店長が夜空を見上げると、星がまたたきながらゆらゆらと落下し始めた。

 「あっ」

 それは目の錯覚だった。

 厚い雲に覆われた空に雪が舞い始めたのである。初雪……。

 ホワイトクリスマスなんて何年ぶりだろう。

 ネオンサインがきらめく都会の雑踏。

 ヘッドライト。

 テールライト。

 ケーキを売る学生アルバイトの声がする。

 恋人同士、親子連れ。

 サラリーマン。

 人混み。

 白い息が上がる。

 人の波に逆らっているのか。

 それとも流されているのか。

 師走の街を一人行く支店長の視界がふいに赤い色で塞がれた。

 ふとっちょのサンタクロースが歩道の真ん中でおどけている。

 「メリー・クリスマス。お兄さん、お一人ですか」

 支店長は無視して通り過ぎようとする。

 「お兄さん、お待ちなさいって」声が追いかけてくる。支店長は振り返る。

 「明智さん。もういいですよ、変装は。ショウは終わったんですから」

 「はっはっはっ」

 サンタクロースの扮装の下からバリッとした白いスーツ姿の 明智小五郎(天知茂)登場。

 立ち止まった通行人が思わず拍手と喝采を送っている。周囲の歓声を制しながら、

 「支店長くん、チャンピオンの君がそんな風じゃいかんよ。さぁ、みんな待ってるから」

 明智の指さす彼方に大きなクリスマスツリーがある。明智がにこやかに笑いかける。

 「祝賀会だよ、祝賀会。今年もいろいろあったじゃないか」

 ツリーの下にコート姿の初老の男が立ち、手にした折り畳み傘を振っている。

 その隣に背の高い男と背の低い女のカップルがいて、一斉に手を振って、こちらに呼びかけている。

 支店長はゆっくりと微笑むと、しっかりとした足取りで樅の木の下へ歩み始めた。  

終わり



 注・これはフリップ村上氏のサイトにおいて懸賞付き推理クイズ2007(メイド探偵モエコ2 マリア様はねてる)が実施された折に、私がフリップ村上氏のBBSに書き込んだ突っ込み満載の過去ログや妄想アナザーストーリーを編集したものです。

 ちなみに2004年も同じイベントがあり、その折に速やかな解決の手際を認められ、初代チャンピオンの栄誉を当支店は戴いておりました。

 尚、この解決編はフリップ村上氏のオリジナルミステリーの解決編とはかけ離れたフイクショナルなものです。