プロローグ
宇宙最高裁判所のマザーコンピューターの調査に向かった白鳥スワンとリサ・ティーゲルはコンピュータールームに幽閉された。マザーコンピューターは二人を侵入者と見て、室内の生命維持装置を遮断する。二人を襲う触手状のセキュリティシステム。デカースーツは宇宙空間での活動も可能なため、リサはデカブライトに変身する。特キョウのデカスーツはブレスロットルに蓄積されているためデカベースとの通信が遮断されている状態でも変身が可能なのだ。特別指定凶悪犯を銀河の果てまで単身追うエリート刑事ゆえの装備なのである。スワンはこんなこともあろうかと用意しておいた、パーソナルライフマスクを装着する。生命の危機は回避できた。触手の攻撃をかわし、デカブライトの拳が壁をぶち抜く。ドッグへ走る二人。デカブライトは乗ってきたデカバイクを動かそうとするが、デカバイクはマザーコンピューターに電子頭脳を乗っ取られ、動かすことができない。「スワンさん。一度撤退すべきだ。」「いや、私は残ります。残ってマザーコンピューターの調査をします。マザーの暴走を止められるのは私だけですから。」宇宙最高裁判所の異変を知らせるためにデカブライトは裁判所星からの脱出方法を捜す。
デカレンジャー最終回 四部作B
Episode.X3 アブレラ・ウィルス
「相棒。」「相棒って言うな。」「相棒は宇宙最高裁判所のジャッジを疑ったことはないか。」「宇宙一、パーフェクトな最高裁判所のコンピューターが一切の私情を交えずに瞬時に裁定を下す。これが宇宙の秩序だ。」「俺たちの捜査状況もこのSPライセンスを通じてマザーコンピューターに常時送られている。ジューザ星人ブライディの時、絶対にデリートだと思って俺は捜査し、ジャッジを要請した。それなのに宇宙最高裁判所は無罪のジャッジを下した。そしてその判断は正しかった。」「つまり、それだけマザーはパーフェクトだと言うことだ。俺たち人間の思いこみなどは瞬時に修正してしまう。」「だが、相棒。世の中に本当にパーフェクトなものなんてあるのか。だったら、なぜ、宇宙最高裁判所はアブレラのデリートを拒否したんだ。」「バン。俺たちスペシャルポリスにはアリエナイザーを逮捕する権限とデリートする権限が与えられている。だが、ジャッジそのものの権限は与えられていない。裁く権利は俺たちにはない。何故だかわかるか。」「養成所でならったよ。三権分立だろ。」「俺たちはクールに捜査する。パーフェクトなジャッジは宇宙最高裁判所が下す。………しかし、もし宇宙最高裁判所がミスジャッジをしたり、意図的に犯罪者を見逃すようなジャッジをするとしたら、これは大問題になる。地球署存続の危機どころの話じゃない。」「相棒。」「相棒って言うな。」「裁判所星には俺たちは近づけない。スワンさんたち大丈夫かなぁ。」
漢方医ハクタクがテツの様態を見舞って首を振った。「わしは漢方医であって外科医ではない。わしの手にはおえん。このままでは坊やの命は、わしの秘薬を使ったとて、持って明日の夕刻。しかし、あの男だったら、奇跡の腕を持つ男と言われるあの男だったら。この難しい手術を成功させることも可能かも知れぬ。」「その医師って誰だ。教えてくれ。ハクタクさん。」「センチャン、そんなのも知らんで、よくスペシャルポリスがつとまるの。サムオ星人のBJじゃよ。あいつは医療違反やら恐喝罪やらで、お前たちスペシャルポリスから指名手配中じゃろ。自分が捕まるとわかっていてお前たちの前になど現れるものか。やつが手配されて、もうかれこれ十年。居場所は誰にもわからぬわい。」
デカルームでセンチャンの報告を受けるボス。「確かにBJには逮捕状が出ている。法外な手術代を支払わされたと訴えたものがいたんだ。」訴えたのはサウザン星人ギネーカンである。息子の手術代に一億クレジットを支払ったのだが、息子が快癒した後で、手術代が高いと難癖をつけて、その全額返却を求めたのだ。BJは返却を拒み、ギネーカンは宇宙警察にBJを訴えた。ドギー・クルーガーは当時、サウザン星のスペシャルポリスだったのである。それ以来、ずっとBJを追っていた。「BJが悪い人間でないことは調べているうちによくわかった。貧しき人から一銭も取らずに難手術を次々と成功させ、多くの患者たちから尊敬されていた。誰一人、やつの悪口を言うものはいなかった。彼を憎んでいたのは高い手術代巻き上げられた一部の非道な金持ちだけだったよ。しかし、俺は刑事だ。訴えがあれば、被疑者を確保し、ジャッジにかけなければならない。やつは指名手配を受けてからは二度とオペはしていない。名を変え、多分、顔も変えて宇宙のどこかに潜伏しているんだろう。時効まであと半年だ。やつはそれで自由の身になれる。また、思う存分、患者にメスを振るえるようになる。」「ボスが十年間追っていて、捕まらなかったやつなんでしょ。そんなやつ私たちに捕まえられるわけないよね。」「がちょーん。」「テツの命はあと二十時間足らずなんですよ。ボス。」「ただでさえ、手が足りない。アブレラの捜査に加えて、宇宙のどこにいるともわからない医者の居所探しをしている余裕など、俺たちにはない。」「じゃっテツのことはどうでもいいって言うんですか。」「俺たちは刑事だ。テツは今、自分の命が助かることよりも、よからぬ宇宙の悪を退治することを願っているはずだ。俺たちに出来ることは……テツの意志を継いで事件を解決させることだ。」
デカベースのメディカルルームで意識を回復するテレサ。枕元でずっと見つめているホージー。「放射病はすっかり良くなったのかい。」「ええ。」「しかし、何故、君があの現場にいたんだ。」テレサはホージーが自分のために特キョウ昇進を辞退した事を知り、いつかホージーに手柄を立てさせようと組織に近づいていたのである。弟を宇宙警察に殺されたテレサは宇宙警察に恨みを持つものとして裏組織の信用を得ていた。「テレサ……。」「マッスルギアを着るためにはメガゲストリンが必要なのよ。」「なんだって。」テレサはアブレラがメガゲストリンとマッスルギアを量産できる工場を地球に建造中であることを告げる。この件には宇宙マフィアの総裁Xが絡んでいるらしい。
「ボス。」「うむ。マッスルギアとメガゲストリンが結びつくとはな。俺もマッスルギアのシステムには興味を持っていた。あのシステムが銀河連邦警察時代の呪われたコンバットスーツに似ている。」「アンビリーバボー。コンバットスーツって、ジャスミンが一度着たことがある…。」ジャスミンはコルトノ・ギンの犯罪に立ち向かうためにコンバットスーツを着て、一度戦ったことがある。しかしあまりの負荷のために、その後一ヶ月間意識不明のダメージを負った。
センチャンが逆立ちする。「これはセンのシンキングポーズである。こうすることで何かが閃くのだ。」「コンバットスーツのシステムを誰かが宇宙警察から盗み出し、それを裏社会の科学者がマッスルギアとして完成させた。コンバットスーツの負荷を和らげるために宇宙麻薬やメガゲストリンが必要だったに違いない。」直ちにボスがセンの推理を長官に報告した後で、「スワンとリサはどうしました。その後、連絡が付かないんですが。」「心配はいらないだろう。裁判所星は知っての通り、あらゆる電磁波からの結界が張られている。ジャッジに関する通信以外の無線は通じない。マザーコンピューターのメンテナンスが長引いているのだろう。」「長官、態度冷たくない。」バンとウメコは長官の冷静な態度に業を煮やす。ウメコがボスの後ろから、長官に向かってあっかんべーをする。「わっ、よせ。ウメコ。」あわてて、ホージーが抑える。無反応な長官。通信が終わった後で、センチャンがもう一度、逆立ちする。「ボス。さっきの長官の通信は合成映像です。あれは本当の長官じゃない。今までの長官との通信記録をリミックスして、長官がリアルタイムで会話しているかのように仕立てたものです。」「じゃあ、さっきの長官はマザーコンピューターが作り出した幻ということね。」「その通り。この世に解けない謎はない。」ボスの鼻が乾いた。「スペシャルポリスのメインコンピューターも宇宙裁判所のマザーコンピューターの支配下にある。もし、マザーコンピューターが暴走したら、混乱は全宇宙に及ぶぞ。既にマザーコンピューターはスペシャルポリスの星間通信をすべて支配下に置いたようだ。」「ボス。これじゃあ本部へ報告が出来ませんよ。」「アブレラの言っていた『私を裁く事は宇宙最高裁判所には出来ないのだ。』とは……。アブレラがマザーにハッキングして自由に操っているということなのか。」「マザーのセキュリティシステムはパーフェクトだ。コンピューターが自分の意志でセキュリティを解除しない限りは不可能だ。」「自分の意志でアブレラを迎え入れるなんて……。」「または裁判所星の内部に物理的な何かが仕掛けられたか……。」
地球某所のアブレラのアジト。アブレラが宇宙マフィアの総裁Xと酒を酌み交わしている。「くっくっくっ。恨み重なるデカレンジャーめ。マッスルギア部隊が完成すれば一気に踏みつぶしてくれる。」「宇宙最高裁判所が我々の味方につけば怖いものはない。我々に宇宙の法が味方してくれるのだからな。アブレラ。私はハンドレッド星に戻って、マッスルギアの工場をフル回転させることにする。」「了解した。私は地球工場を引き受ける。」
デカベースに一機のスペースシップが着艦する。「だれか、このお喋りなゴリラを黙らせてくれ。」「リサ。そんなに冷たくするな。脱出ポッドを拾ってやったのは俺なんだからな。」罵り合いながらデカベースに入ってきたのはSWAT教官のブンターと行方不明になっていたリサだった。「クルーガー署長。地球署だけが目下、マザーコンピューターの支配を免れている。見事な手際だ。」「スワンは用心深い女なんだ。元々、マザーコンピューターの設計にも一枚噛んでいる。万が一にもマザーが暴走した時のために、地球署のコンピューターに強力なファイヤーウォールと独立管理システムを施しておいた。宇宙最高裁判所の審判に不審が感じられた段階で、俺は地球署のメインコンピューターをマザーから切り離し、ウィルスチェックを済ませていたんだ。……リサ。スワンはどうした。」「白鳥スワンは私と共に一時はマザーに幽閉された。しかし、今は星に残ってマザーの調査をしている。私は異変を知らせるために脱出してきた。コンピュータールームで採取した怪しいチップをスワンが私に託した。これの分析を頼む。」「科学班を大至急集めろ。」ブンターがウメコのバナナを取り上げて食べている。「やぁ、クルーガー。SWAT小隊の訓練中にたまたま裁判所星の近くを通ってな。このきつい女を拾っちまったってわけだ。どうだ。苦労してるなら、うちの若いのを貸すぞ。」「ブンター。バンたちの成長ぶりをじっくりと見ていてくれ。」
マッスルギアを着たアリエナイザーが街を破壊する。「俺は圧倒的な力を手に入れたぞ。神に等しい、強力なパワーだ。」急報を受けてデカレンジャーがスワットモードで急行する。五人の攻撃をいとも簡単に跳ね返すアリエナイザー。しかし、様子がおかしい。メガゲストリンに脳細胞まで冒されているらしく錯乱状態である。「いけない。マッスルギアを脱ぐんだ。お前の体は危険だ。」弾き飛ばされるデカレンジャー。その時、天空から桜吹雪が舞い落ちる。番傘がくるくると舞い落ちると、その影からカーキー色のデカスーツ姿が現れる。「仁義なき渡世に義理と人情の筋を貫く。任侠の刑事。デカブンター。」愕然とするデカレンジャー。「きょっ、教官?!」「がっはっはっは。くそったれども。クルーガーが止めたが、どうせ奴とは犬猿の仲だ。せめて俺だけでも遊ばせてもらおうと思ってな。デカイングラム。」デカブンターの銃弾に百メートル先のビルにたたきつけられるアリエナイザー。瓦礫に埋まって倒れるが、機械仕掛けの人形のように再び立ち上がり、更に凶暴に破壊を続ける。ホージーがスワットモードの生命関知システム・シリウスVでスキャンしてみると、アリエナイザーの存在がモニターされない。「こいつはもう既に死んでいる。死んだ肉体がマッスルギアの力で動いているだけだ。」「もう、十分だろう。」バンのディーマグナムが火を噴き、マッスルギアは完全に活動を停止する。「何が、圧倒的な力だ。マッスルギアは身につけた者の命を吸って動く、悪魔の兵器なんだ。俺が必ずマッスルギアをぶっ潰してやる。」バンが拳を握りしめて怒る。
「瀕死のテツの命を救う方法はないのか。マッスルギアとマザーコンピューターの秘密とは。捜査せよ、デカレンジャー。戦え、特捜戦隊デカレンジャー。」